林を抜け、淡い月明かりを浴びながら村の遊牧地の側を歩き静かな村に入った。そしてカイル等を起こさない様に玄関のドアを開けると、そこでジョブスが少々焦った様子で待っていた。
「総帥……! 申し訳ありません、総帥が出た後何故か急に眠気が襲い……リリスも同じ状態だったらしくて……」
「なるほど……姿こそは見ていないが、原因は恐らくエルレインだろう……そこまでしてユダを外に出したかったみたいだな」
冷静な口調からエルレインの名が出た事に今度は驚く彼を連れてユダが使っている部屋へ進む。
「エルレインって……まさかこんな田舎に……」
「どうだかな、狡猾な奴が拠点を離れて距離のある田舎にそのまま現れるとは思えん。奴なら幻影を飛ばす事も出来るだろう」
「それって、俺達の行動がバレてるって事には……」
「ユダは、奴はリアラの気配を追って現れたと言っていた。エルレインはユダがリアラの近くに居る事を知っていら……私達も近くに居ると奴が既に知っていてもおかしくはあるまい」
部屋に入り、眠っているユダをベッドに寝かせた。寝息に変わりは無く、目を覚ます様子も無い。
「だがそれ以上なは問題なのは……スタンが殺された背景にもエルレインが居た可能性がある事だ」
「なっ……10年も前の事件ですよ……!?」
「ああ、ユダが聞いただけの可能性だが……エルレインとバルバトス、この関係を否定出来ない以上その可能性も否定しきれない。奴が何故、バルバトスなどという凶器を使って英雄を狙うのか……その鍵となるのは、奴が崇めているらしいフォルトゥナという神……」
「フォルトゥナ……それもこの子が?」
頷き、エミリオは眠る彼の頭を撫でる。
「奴がアタモニを信仰していない事は同意出来る、アタモニ神団のシンボルであるフィリアが組織の中心から外されているからな。真にアタモニの従者を名乗るならば、アタモニの生まれ変わりとまで謳われた彼女を蔑ろにはしない筈だ」
「それは前々から考えられていた事ですが……まさか別の神とはね。でもそれなら、わざわざアタモニ神団に潜り込む理由が……別の所で宗教興してジンジャーエールを奪うならまだしも、内側から塗り替えるのが目的ならリスクがデカ過ぎるでしょう」
「それだけの自信があるのか、はたまたそれ以上の何か……例えばレンズに狙いを集中しているのか」
「やっぱりそこか……でも神団の敷地内は治外法権だから此方だから此方からは手が出し難いっていうね……」
眠るユダは落ち着いており、2人は部屋を後にしキッチンへ行く。そこにはリリスが居り、ランプしか点いていない薄暗い中で紅茶を淹れていた。