「私は誰にも殺されはしない」
足を止め、彼は振り返らずに返す。
「私には責任がある、生きて守らなければならないモノがある。……それに遺される苦しみを、知っている」
左目が痛み、彼は溜め息を吐き、そして笑った。
「知っているのにな……一度芽生えた復讐心は消えはしないんだ。今も、昔も、私の行動の根底には復讐心がある。昔はアイツが居たからこんな私でも最後まで戦う事が出来たが……果たして今はどうだろうな」
後ろに居る青年から言葉は無い。
「だから、全てを利用する、お前を傍に置く、生きて事を成す為にな。お前が私を殺すというなら、私はそれを更に利用するだけの話だ」
「……甘い……アンタの考えは甘過ぎる……!」
「そうだな、アイツに似てしまったのかもしれん」
激昂にも似た指摘に悪びれることもなくエミリオは言ってのけた。
「だからなのだろうかな……私はお前を信じたい、犠牲にしたくはない、守りたいモノの中にお前を含めてしまう」
偽りの無い本心を告げた後、彼は片足を引き後ろを向く。それとほぼ同時に、彼の左手が他人の右の拳を受け止めた。
目の前には彼を睨む青年が居る。
「僕を守るなどと……御目出度いにも程がある……!」
「フッ……確かに、カイルに偉そうな事は言えんな」
「それ以上くだらない事を言ってみろ……アンタの隠し事をあのガキに突き付けてやるからな……っ」
「それは、阻止したい事だな……」
不敵な笑みを浮かべたエミリオは空いている右手で青年の胸ぐらを掴み足払いを仕掛けた。それに素早く反応したユダは左手で相手の左腕を掴みエミリオもろとも後ろに倒れ込もうとする。
そのまま倒れた先で彼が何を企んでいるのか、すぐに理解したエミリオは拳から手を離し片腕で青年を抱き締める様にして身体を密着させた。
「なっ……!?」
その行動が予想外過ぎたのかユダは足に力を入れ倒れそうな身体を止める。そこへすかさずエミリオは足払いを仕掛け、今度こそ彼の身体を地面に倒した。
「生憎、デスクワークが多いとはいえ鍛練は欠かさなくてな」
「チッ……」
仰向けで悪態をつく青年、それに対して彼から離れる様に立ち上がりながら返されたのはやはり不敵な笑み。