風が穏やかに流れ、草木と、青年の髪を揺らす。その際の表情が“幼い少女”に見えエミリオは自分の目を疑った。
「……何だ」
何時の間にか見つめる目になっていたのだろう、ユダは彼を睨み付ける。我に返ったエミリオは慌てて口を開く。
「いや……、とにかく、エルレインとバルバトスについては更なる情報が必要だが……下手にリアラに探りを入れるとリアラを追えるエルレインに勘づかれるな」
「……僕に尋問すればいいんじゃないのか」
目的を成す為ならばそれも正しい判断だろう。だがエミリオは、何時もの無表情を見せる青年に首を横に振った。
「エルレインに勘づかれるという点はお前にも含まれるだろう。奴が“会い”に来るならな……」
「フン……なけなしの信用もガタ落ちだな」
そう言って皮肉った笑みを浮かべれば、それを上回る皮肉の笑みが返される。
「それならそれで、エルレインとの相対にお前を利用するだけの事だ。利用出来る物は利用しなければ、企業の頭なんてやっていられない」
「……無駄に終わるだろうがな」
それは非常に小さな声だった。だがそれが聞こえ、そして聞き流せないと思ったのは彼の目が弱々しかったせいだろうか。
“無駄に終わる”、それが意味しているのはエルレインにとって彼はわざわざ接触する程の深い関係ではあるが、弱点にはなり得ない存在だという事。当然青年の言葉を信じた上での話だが、エミリオは微塵にも疑いはしなかった。
「……さて、そろそろ戻るか。お前も休んだ方がいいだろう」
「え……ぁ……」
ユダは何故か戸惑っている、まるで我にでも返ったかの様に。
その理由を、エミリオは既に知っていた。
「私に牙を剥いたからといって、私から離れる事は許さん。エルレインにしてもバルバトスにしても、お前は貴重な戦力だからな」
反論は許さない、言葉にせずそう伝えて彼は立ち上がり村へ足を向ける。その背中に、急いで腰を上げたユダが言葉をぶつけた。
「僕はっ」
絞り出す様にして、ぶつける。
「僕は、……アンタを、殺せるんだぞ……!?」
それに恐怖が籠められているのはすぐに分かった。