隻眼の目が、今まで見せた事がない驚愕を見せている。その事にだろう、ユダは戸惑っていた。
「スタンを、“始めとした”……?」
「な、何だ……スタン・エルロンについては、アンタが船で言った……」
「いやそれはわかっている。ただ……“スタンを始めとした”とは……」
「……何が言いたいんだ、アンタは」
困惑しているのはユダだけではない、この困惑を生み出したエミリオも同じ。
彼は、訝しげな問いに答えた。
「スタンがバルバトスに殺されたのは、10年以上も前の事だ……」
「な、……んだと……?」
エミリオは今の事態が、己が想像しているよりも大きな何かが動いているのを感じていた。
そんな彼が告げた事実に対しユダは更に困惑している。
「10年……どういう事だ、ならばエルレインは……」
「単純に考えて、10年前から暗躍している事になるが……奴が世間に姿を現したのはここ数年の事、それまでこの10年、奴は一体……」
今まで考えていた事が覆される感覚に彼は覚えがある。思い出したくはない、だが忘れてはならない感覚だった。
「私は今まで、10年前の事件はバルバトスが単独で行い、辛うじて生きていた奴がエルレインと利害の一致で手を組み再び動き出したと考えていたが……どうやらその考えを改めなければならないみたいだな……」
「……そう、みたいだな」
歯切れの悪いユダの言葉、何かを言いかけている様にエミリオは見える。だが彼にはその勇気が無い、同時にそれを感じる事が出来ていた。
本来ならば問い詰めるべきだろうが、彼の手が震えているのを見てその考えは頭の中にしまう。
「10年前からよからぬ事を考えていたのか、それとも他の何者から引き継ぎでもしたのか……バルバトスが退いた事は奴の計画にどのような影響を与えたのか……まったく、ただでさえ未だ素性が掴めないというのに」
「世界を又に掛けたオベロン社も大したことないんだな」
「大したことあるとは一度も思った事は無いがな」
屁理屈の様な言葉をユダは鼻で笑う。嘲笑っている様な、ただ単におかしかっただけの様な、とりあえず先程までの沈んだ何かはそこに無かった。
それに対して安心してしまうのは、やはり彼を気に掛けているからだろうか。