「おい、しっかりしろっ」


 林の中に倒れていたユダをエミリオは抱き上げた。彼の呼吸に乱れは無く、外傷は見当たらないが、やや魘されている様に見える。


「この晶力……奴か……っ」


 この場から感じられる晶力をエミリオは知っていた。以前オベロン社に現れた女、それを疑わない。


「んっ……」


 熟考する腕の中で身動ぐユダは、重そうに瞼を開けた。

 それが開ききるその直前、エミリオは異様な速さで伸ばされた彼の右腕を掴んだ。細い指先は明らかに首を狙い、普段真意を隠している目は敵意を孕んでいる。



「ユダ……!」


 目標を狙う腕の力はその外見に似合わぬ程に強い。左腕も動き出そうとしていたが寸での所で同じ様に掴み、已む無く体重を掛け青年の身体を仰向けの状態で地面に押し付けた。


「目を覚ませ……!」

「くっ……っ……」


 振りほどこうと抵抗する青年、確かに敵意があるのだが、それ以上に別の“何か”をエミリオは彼から感じていた。

 言い表すとしたら、“恐怖”に近いのだろうか。


「……落ち着け……此処にお前の敵は居ない」

「……、……………」


 静かに語り掛ければ、呼吸は荒いものの少しずつ力が弱まっていく。目からも敵意は消えていった。


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bkm

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