「……って、リリスさんアイツと二人っきりか!?」
「何を今更言ってるのさ」
「馬鹿野郎のんびりしてられるかっ、男はオオカミなんだぞ!?」
力強く主張する青年、しかし最大の理解者である少年はやはり冷ややか。
「よく分かんないけど、それって自分がオオカミだって言ってるのと同じだよね?」
「俺は紳士なオオカミだから良いんだよ」
「……とりあえずロクでもないのは分かったよ。俺シャワー浴びてくる、部屋に突撃とかするなよロニー」
「えっ、な、何言ってんだ、俺がそんな不粋な……って聞けよ!!」
慌てたロニは自分を放置し去ろうとするカイルを追いリビングを出ていった。
若者達が去ったそこで、ジョブスは深い溜め息を吐いているエミリオに問う。
「リリスが行かなかったら総帥がシバきに行ってたでしょ」
「何故私がそんな事を……」
心底心外だと言わんばかりに鋭い睨みを彼は利かせるが、ジョブスの笑みにそれ以上何も言わなかった。
「長い付き合いですからー」
「うるさい」
それは覚えのある感覚。
その頃ユダは、部屋に入る前からテーブルに置かれていた物をリリスに手渡しされ困惑していた。
「……何故これを僕に」
「お詫び、というのは建前で、本当は美味しそうに食べていたから、かしら。まあ実はエミリオにと思って余分に作っていた物なんだけどね」
「ならそいつにやればいいだろう……僕は甘い物なんて……」
つい受け取ってしまったプリンを返そうとしたが、リリスは笑いそれを受け取ろうとしない。
訝しげに青年がそらを見ていると彼女は笑みは崩さずに口を開く。
「だって貴方、昔のエミリオと同じ事を言うんだもの」
「え……」
まるでその一言がショックだったかの様な反応をユダは見せた。それが偽りでない事は動揺している視線から察する事が出来る。
リリスにはその真意を理解する事は出来ない。だが、それが彼を左右するのだと悟り追求はしなかった。
「ほら遠慮せずに、エミリオ達は帰ったら食べられるんだし、ね?」
「…………」
拭いきれない動揺を押し殺しながらユダはプリンを口に運んだ。その様子にリリスは嬉しそうに微笑む。
「美味しい?」
「……ん」
その静かな返答には、カイル達の前では見せなかった子供の様な声色があった。正に、時折子供の側面を見せていた昔の彼の様に。
「ユダさん」
「う、ん?」
「なかなか個性的だけど、私の家族と仲良くしてあげてね」
「……知ったことか」
利害が一致しただけ、青年はそう言う。