「なんなんだ……」
肩にタオルを掛けたユダは眉間にシワを作りリビングに入って来る。被害者と思われる彼にカイルが慌てて駆け寄ろうとしたが、突然男の断末魔と鈍い打撃音が外から聞こえてきた。
平和な田舎に似つかわしくない出来事に若者たちが黙って互いを見ているその中に、素晴らしい笑顔のリリスは戻ってくる。
「あ、ユダさん、ごめんなさいね大丈夫だった?」
「あ、ああ……」
「まったく、いい歳して覗きなんて情けないったら……ちゃんと“片付けて”おいたから、安心して」
「……あ……うん……」
珍しく反応に困っている彼はリリスと目を合わせない。だがその心境を知ってか知らずか、リリスは彼の手を強く握った。
「本当にごめんなさい、お詫びをしたいからちょっと部屋まで行きましょ?」
「え……!?」
僅かに恐怖を見せたユダだったが、連れられるまま再びリビングから去っていく。
「……だ、大丈夫かな……?」
流石にカイルも状況にあった断ればを言い叔父に視線を向ける。そんな不安気な目に対してエミリオは全く態度を変える事無く告げた。
「あの覗きはリリス狙いだ、巻き込んだお詫びでどうこうしたりしないだろう常識的に」
「しかし災難ですよね……被害者も加害者も、色んな意味で……」
「最初から覗きなんぞしなければいい」
「超正論で遇の音も出ないや」
肩を竦めるジョブスは笑っているのだが、何処かぎこちない。強いて言うならば、恐怖が見え隠れしている。
そんな田舎に似合わない雰囲気の中、ロニだけが違った。
「可哀想な奴だな……決死の覚悟で覗いた先が男なんてよ……」
「んー、まあ……リリスの強さを知っての犯行だから、ある意味尊敬はすれど……」
ジョブスは横目でエミリオを見ながら発言する。長い付き合いであるジョブスだけは、彼がやや不機嫌な事を知っている。
そんな事を知る由もないカイルは、ロニに反論した。
「覗きは悪い事なんだから、エミリオさんの言う通り最初からやらなきゃいいんだよ。それにユダは綺麗だからさ、女の人に間違えても仕方ないんじゃないかな」
「はー……お前なぁ、あんな愛想の欠片も無いヤツが女だったら世の中どうかしてるっての。女性っついうのはもっとこう温かくてだな……」
「前に母さんが言ってたけどなー、“ロニは女に夢を見過ぎだ”って」
少年の言葉に青年は固まり、男二人は笑いを堪えるのに必死だった。