「じゃあゆっくりしてちょうだいねー」
一通りシャンプー等の説明をしリリスは脱衣室から去って行った。残されたユダは深々と溜め息を吐いた後、脱衣室の近くに人の気配が無いのを確認してから服を脱ぎ始めた。
「……疲れる」
呟き、自分の首にあるシルバーのネックレスに指を置いた。そして自然とその指は、トップになっている指輪へと移動する。
「…………」
その頃、用事があるとキッチンに立つリリスに追い出された男達を頼まれたカイルは困っていた。
「だいたいね、総帥は女心が分からんのですよ。見た目美形で中身真面目でそれでいて甘党とか、女子が食い付くに決まってるじゃないですか。しかもそれを計算しているわけではなく自然とそういうキャラが立って、それに困ってるとか……不公平過ぎる」
「耳にタコが出来る程その文句は聞いている。お前がモテないのは好みの女だったら構わず声を掛けるからだろうと、私はお前の耳にタコが出来る程言っているが」
「軍人じゃあね、なかなか出会いが無いんですよ」
「ウイルだって条件は同じだったろう」
痛い所を突かれてしまったジョブスは歯を食い縛りテーブルに突っ伏した。軍人であろう者の情けない姿を特に気にすることなくエミリオはコーヒーを啜る。
そんな様子を最初から見ていたがどうにも割って入れないでいたカイルはある事に気付き、傍で荷物の確認をしているロニに問う。
「今更かもだけどさ、仕事以外のエミリオさんってあんまり英雄って感じの人じゃないよね」
「んーそりゃ英雄だって人間だしな、色恋沙汰だって色々あったりするだろ」
「そう、なんだ……父さんもそうなのかな……?」
父との記憶を少年は思い出す、青年の泳いだ目に気付かずに。
しかし、それを妨げる思いがけない声がリビングの外から聞こえた。
『誰だ!!』
声の主は此処には居ない、だが彼等が知る青年。まさか、そうこの場に居る全員が考え立ち上がった時、何故かお玉を片手に持ったリリスがキッチンから出てきた、不適な笑顔と共に。
「私が見てくるわ、皆は休んでて」
「で、でも……!」
当然の反応をするカイルだか、その先の言葉は今度は肩を叩いたエミリオに遮られた。
「リリスに任せておけ、問題は無い」
「でももしかしたらアイツが……!」
「いや、恐らく違うだろう……」
甥の辞を否定する叔父の目は少し疲れている楊にカイルには見える。そして、いつの間にかリリスの姿は消えていた。
「ああ、アレか……」
どうやら詳細を知っているらしいジョブスは渇いた笑いを溢して腰をソファーに降ろす。カイル同様警戒を続けるロニが彼に訊いた。
「一体、何が……」
「ああ、アレだ、覗き」
「……は?」
「いやぁ、まだやってたんだな……アイツ……」
少年と青年は、とりあえず短めに叫んだ。