その指摘に反論しようと一瞬口を開いたエミリオであったが、思うところがあったのかゆっくりとそれを閉じる。リリスもそれを分かっていたのか小さく笑い、やっとソファーに腰を降ろした。
そして珍しく弱々しいその視線を、隻眼にむける。
「……貴方、あの時と同じ目をしてるわ」
「……そうか、気をつけなければな」
「詳しくは訊かないけれど……私、家族を早くに亡くすのはもう嫌よ」
「ああ、分かっている……死ぬつもりは、ない」
その返事はどんな言葉よりも重い。
それを理解しているリリスはただ笑みを浮かべた。
「じゃあ、美味しい物を作って沢山元気になってもらわなきゃね。ノイシュタットに行くんでしょう? ついでにバッカスに届け物をしてくれないかしら、お弁当用意するから」
「お前は……人を使うのが上手いな」
「あら、オベロン社の総帥様にそんな事言われて光栄だわ」
「まったく、出来るならウチで雇いたいくらいだ」
彼女には静かな村が似合うのを、失笑する彼は知っている。