「あ、エミリオさん……」
名前を呼ばれ振り向くと、ロニがそこに居た。彼は隣に立つと欄干に身体を預け海を見下ろし、その背中をエミリオが撫でる。
「大丈夫か?」
「すみません……ワインくらいなら大丈夫かと思って……」
「ワインは進むからな……船上だから余計にキツいだろう。それにお前、大分ストレスを溜め込んでいるな」
「…………」
顔を上げ、青年は軽く歯を食い縛った。
「悔しいんですよ、あの男に敵わなかった事に……護る為にってやって来た今までの事が全部、一瞬で無意味だって結果を出されて……ユダの奴が来なかったら、俺等は……」
「終わった事を悔やんでいても仕方ない。少なくとも奴は今存在して、私達を狙っている事を私達は知っている……コレ以上不意討ちを取られてたまるものか」
「…………」
ロニはエミリオの隠された左目を見つめる。
すると、エミリオは不意に微笑を浮かべた。
「お前、さっき船旅に何か思い出とか言っていただろう」
「あ、はい……」