「青春羨ましい……俺なんて人生の瀬戸際……」
「日頃の行いだな」
ジョブスの悩みを即座に切り捨てエミリオは腰を上げた。どうやら部屋を出るらしくドアに近付き、若者達に告げる。
「少し風に当たってくる。お前達は早めに休んでおけ、船に乗り慣れてない内は自覚せず疲れが溜まるからな」
「はーい」
「分かりました」
予想通りユダからの返事は無く、視線さえ向けられない。
浮かない顔のジョブスに目配せしてからエミリオは部屋を後にし外に出た。風は冷たく少し強いが、酔い醒ましには丁度良いだろうと酔ってはいない彼自身はそう思う。
欄干に手を置き海を見渡すが、この船以外の明かりは無い。
「……昔、か」
船に乗り思い出すのは当然、18年前の事。真っ直ぐ己を見てくれた彼と、真っ直ぐ見てやる事が出来なかった彼女。
今はもう、取り戻せないモノ。
「後悔するな、なんてどれだけ無茶な話か……」
甲板に出ると更に風が強く感じた。
もしも、その考えはどんな風でも吹き飛ばせないのだろう。