自分は望まれて産まれたわけではない、仮定の現実に目の前は真っ暗になる。
故に彼女が憎くて、彼女が羨ましい。
「…………」
足が止まる、このまま逃げ出してしまいたいという考えが脳裏を過ったからだ。
その時、愛剣が主に声を掛けた。
《僕には女性の気持ちは分かりません、だから気休めしか言えない、それも軍人としての僕を許してください。
母親というのは、子供を産んだ人の事ではなく、子供を愛する人の事です。あの時代、確かに地上はボロボロで絶望に満ちていましたが……母親という存在はそんな時代でも強かった。子供を護る為に身を削り、命を懸け、子供の前では常に笑顔を見せていた、例え血が繋がっていなくても。その姿が軍人達に戦う気力と希望を与え、あの戦争に勝利した。
ルーティは、孤児院を全力で護ろうとしている……それはクリス様がルーティを護ろうとしたのと同じなんじゃないでしょうか。そして、そんなルーティの母親が……坊っちゃんを愛していなかったなんて、あり得ないんじゃないでしょうか》
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bkm
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