彼女が居ない、彼女はもう居ない。
空には父が居る、全てを見下しそこに居る。
こんな事が、現実だというのか。
「エミリオ、無理しなくていいのよ……詳しいことは聞いていないけれど……今の貴方は、見ているのが辛いわ……」
そう言ってマリアンは少年の手を取り、優しく握り締めた。
彼女の優しさに甘えてしまいそうだったが、それはいけないと違う自分が言う。ソーディアンマスターとして、向き合わなければならない筈だと。
だから少年は、ゆっくり身体を起こし訊いた。
「他の、奴等は……」
「……スタンさん達は、別の部屋で休んでいるみたい」
「そう、か……行くぞ、シャル……」
《えっ……でも……》
精神的な部分を考えると深入りさせるのは良くないと判断出来る。
しかしマスターは意思を変えない。
「このまま寝ている方が僕は苦痛だ……現実は、見なければ……」
彼は、一体どれだけ己に鞭を打つつもりなのか。
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bkm
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