「動かないでよ、晶術掛けてあげるから」
「ありがとう」
「……はいはい、どういたしまして」
呆れた声だが、刺々しいモノは殆ど感じない。彼女は今、どんな顔をしているのだろうか。
「あの、一応言っとくけど、さっきの事誰かに言ったら、ギッタンギッタンにするからね」
「分かってるよ。な、セシル!」
「もちろん、口が軽かったら客員剣士なんて務まらないしね」
セシルが答えると、ルーティに何かあったらしくスタンが彼女を呼んだ。
返答は怒声に似た叫びだった。
「イヤーー!! ぜ、ぜぜぜぜぜ全部聞いてたの!?」
「聞いてたじゃなくて、聞こえてたっていうのが正しいかな」
「どっちも一緒よ! 忘れなさい!」
「流石に私でも記憶の改竄は不可能かと」
漸く穴を除くと、セシルの存在を忘れていたらしいルーティが案の定パニックになっている。
思わずセシルは笑ってしまった。
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bkm
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