返事を聞かずに彼は部屋を出た。
《坊っちゃん、頑張ったと思いますよ》
「……頑張るだけじゃ駄目だ……」
“嘘”はこんなにも苦しいモノだっただろうか。
食器をキッチンに居るメイドに渡し自分の部屋に戻ると、すぐにベッドに倒れ込み深い溜息を吐く。
「……何なんだ……一体……」
何故嘘を、そんな事ばかり考えてしまう。
それから数日、マリアンは気を使っては深くは訊いてこない。そしてセシルと全く顔を合わせなかった。
会いたくない、というよりは会うのが怖いという表現が正しい。それが何故か分からない事が更に思考を狭める。
「……やはりおかしい……」
《坊っちゃんの様子がおかしいのは前からですけど……》
「うるさい。……何故だ……何故こんなにアイツの事を四六時中考えなきゃならないんだ……!」
《そればっかりは……坊っちゃんじゃなきゃ分からないと思いますけど……》
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bkm
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