三年生になって、受験が迫ってきて、周りの大人は勉強勉強と私たちの自由を奪ってくかのように言い続ける。勉強が大切なことは分かっているのだ、十分に。分かっているからこそ私は今まで頑張ってきた、おかげで先生や親には勉強のことをとやかく言われたことはなかったが最近になって言われるようになった。「お前はできるんやから」「もうひと踏ん張りや」「最近勉強してるんか?」「それがお前の限界なんか?」やかましいわ限界ちゃうわうっといねん疲れるねん上から言うから嫌やねん反抗期やねん。
 もう教科書や参考書の表紙を見るだけで嫌だった。やらんかったらまたどやされる、と開いて向き合えば「〜せよ」という命令口調な文章に無性に腹が立って、なんやねん、強制すなや、好かん、ごっつい好かん、と泣きだしたくなるのだった。

「先輩」
「…」
「ナマエ先輩」

 放課後の教室で一人勉強をしていたら光がやってきた。そういえば今日は部活休みか、とラケットバックを持っていない光を見て判断し、笑えるような精神状態じゃなかったから手を上げて「おう」と答える。

「何してはるんですか」
「べんきょーやべんきょー」
「疲れた顔してますよ」
「そら疲れますわ。せやけど私天才ちゃうからせなあかんねん」
「甘いもんでも食べませんか。冷やしぜんざい」
「…なんや今日優しいな」

 冷やしぜんざいが二つ入ったコンビニの袋を光が教科書の上に堂々と置くから、手に持ったシャーペンを机の上に放った。光は私の前の席に座ってから小さくため息をつく。

「彼女が疲れてるて先輩を通して知ったとか情けなさすぎるやろ」
「…なんかごめん」
「…じょーだんッス」

 嘘だとすぐ分かった。怒ってはる。光は私と目を合わせもせずに袋から二つの冷やしぜんざいを取りだしている。それを見ながら、先輩って白石たちのことやろか、とか考えた。余計なことを。なんや恥ずかしい。

「ん」
「…ありがとう」
「俺」
「うん?」
「多分、先輩に何もできひんと思いますわ」
「は?」
「先輩が俺のテニスに口出さんのと一緒で」
「…うん」
「せやから、何もできひんけど」
「うん」
「ぜんざいとか、ついでに持ってきますんで」
「…」
「それ楽しみにして、頑張ってや」
「…」
「俺も頑張るから」

 ぜんざいを握る手に力がこもった。もう「うん」とかも言えずに、光が私の方なんか見ないで私のシャーペンをいじったりしながら言うから、余計に光らしくて優しいと思った。
 黙って光を見ていたら、ちらりとだけ目があってそらされて、スプーンを渡される。光もスプーンを持って冷やしぜんざいを開けながら、呟いた。

「ま、食ってください」
「…食べたら帰るん?」
「帰るな言うならおりますけど」
「一緒に帰ろうや」
「勉強はええんスか」
「うん、家で頑張るわ。私頑張るで、光」
「はい」
「ありがとう」
「はい」
「光は可愛えな」
「他に言うことないんか」
「好きやで」
「はい」

 言わせたくせにけろっとそう言って、光はぜんざいを頬張った。追い打ちのように「ひーかるー」と少し可愛い声で言ったら「なんやねん」と耐えきれずに笑ったから私も笑う。
 ほんま、ありがとな、私頑張るからな、光。


20120425
二十万打フリリク@きよさん
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