光と手を繋ぐと、ずいぶん冷たいなぁといつも思う。心が暖かいから、とよく言うからポジティブに受け止めればそうかもしれないが、普通にちょっと「大丈夫なん?」と不安になるくらいの冷たさだった。
 だけど、手を繋ぐとホッとする。飄々とつんつんしてるくせに、ぎゅっと大きい手で握ってくれるからホッとする。手も態度も冷たいくせに、そこだけは暖かいなぁと思うような愛を感じるのだった。そんなこと言ったら多分眉間に皺を寄せて「きも」と言われるに決まってるので言わないけれど。

「何見てんねん、きも」

 言わなくても言われた。どないなっとんねん。
 む、と唇を歪ませたら光は私から視線を外してつんつんした横顔を見せた。真っ直ぐ、それでいて遠くを見ているような目に、つい見とれてしまう。光のこういうとこ好きやなぁ、と思う。

「見んなやブス」
「誰がブスや!」

 繋いだ手をブンっと揺らすと、その手をグイッと引っ張られて繋いだ手のまま頭を小突かれた。ずるい。

「これ以上アホになったらどないすんねん!」
「どないもこないも手遅れやろ」
「コルァ!」

 腹が立ってまたブンっと手を振って光の手を振りほどくと、光はやっぱり真っ直ぐ前を向いて、遠くを見ていた。何やねん、こっち向けや。
 あーもう、と少しため息をついて私も前を向いた。空になった手の平は隣の光を気にして、不自然な動きしかできない。あんなに冷たいのに、いなくなったら更に冷たくなって寂しくなった。

「なぁ光」
「何や」
「あんたの手ぇ冷たいやん」
「おん」
「…」
「…」
「…アイス溶けへんですむな」
「何の話や」

 そうツッコミながら、光はさっきまで繋いでいた手で私の髪の毛を少し引っ張る。「ちょっ」とさっきまで繋いでいた手が反応して頭の近くまで上げたら、その手をぐいっと引っ張られてまた手を繋ぐ形になった。
 馴染む位置を探すようにお互い少しもたもたしながら指を絡めると、何だか急に恥ずかしくなって心臓が早くなって、顔が熱いから前を向く。気付けばあと少しで家に着くところで、まだもう少しこのままでいたいような、そうでないような。こういう風にドキドキしてしまうと逃げたくなって、逃げたくなくなる。

「やっぱ、冷たいわ」
「ええ熱さましやろ。風邪んときとか」
「風邪のとき傍におってくれるん?」
「謝礼は弾んでもらいまっせ」
「金とるんかい!」
「当たり前やろ」
「ほなぜんざいで」
「おん」

 ぜんざい一つでいいんかい、と笑った。そこは光らしく「アホか!」とつっこめるようなことを返せばいいのに、ふと優しくてふとかっこいい。

「ぜんざい七つ集めたら何でも言うこと聞いてくれそうやな、光」
「なんとかボールか」
「結婚したなったら七つ集めよ」
「七つもいらんわ」
「え」
「一つでええ」
「一つはいるんかいっ」
「実際、ナマエがおればええんやろな」

 ぽつりと呟いた光はやっぱり真っ直ぐ前を向いて、遠くを見据えるような目だった。
 ドキドキしすぎて、どうしたらいいか分からなくてぎゅうっと光の手を握ったら、少し力を緩めた光がまたぎゅっと力を込めて、離れたくないと思った。家の近くの静かな道のアスファルトに吸い込まれるような声で「な」と言うから、何も考えずに「な」と答えた。
 「光の手をまだ暖めたいんやけど」と言ってみたら「何年もかかるで」と返された。

「ほな何年もかけて地道にいくわ」
「よろしゅう」

 明日も手を繋いで帰れるんやなぁ、と思ったら頬がゆるゆるしてニヤニヤした。幸せの行き場が体だけじゃまかえなくて拡散するみたいに光の肩に頭をぶつけると、上から光の頭が降ってくる。
 な、光、何年でもこうしておれたらええな。な。


20120421
二十万打フリリク@煉さん
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