オサムちゃんにプロポーズされました。内容は恥ずかしいからスルーでお願いします。
私はOLをしています。オサムちゃんとのなれそめとかはまぁ置いといて、何だかんだオサムちゃんの勤める四天宝寺中学校によく行くし、オサムちゃんの教え子で顧問をしているテニス部の子たちとも何だかんだで仲がいいです。
「ナマエー!」
「金ちゃ、おぉっ!?」
テニス部に顔を出すと、金ちゃんが抱きついてきて倒れそうになった。わぁ、ちょっと、この間より大きくなった、かもしれへん。子供は成長が早いわぁ。
「おい金太郎ー、人の嫁さんに許可なく抱きつかんといてやー」
「まだオサムちゃんの嫁さんちゃうやん!」
「なー?」
「ええええええ」
「ナマエさん、こんにちは」
「白石くん」
部室から出てきたのは白石くんだった。白石くんは私に抱きつく金ちゃんを見ると「金ちゃんあかんやろ、オサムちゃん怒ってまうで」と言うが「怖ないもーん」と金ちゃんは返す。なぁ、全然先生らしくないしなぁ、と笑った。
「お前ら会うのどれくらいぶりや?二か月くらい?」
「この間の大会の打ち上げでオサムちゃんがベロンベロンになったのを迎えに来はったとき以来や」
「せや、あの時は師範に手伝ってもろたんやで。お礼言うた?」
「師範て」
私の言葉にオサムちゃんはへらりとかわして、よれよれの白衣のポケットに手を突っ込んだ。これは言ってへんな、このダメ教師。
「で、私何で呼ばれたん?」
今朝、オサムちゃんに「今日休みやろ。放課後なったらメールするからテニス部来ぃやー」と言われたから来たものの、何で呼ばれたかは分からない。結婚することは予め言ってるらしいから一緒にご報告というわけでもないらしい。
「え?」
「いや、え?やなくて」
「あ、俺らが呼んでもらってん」
とぼけるように言うオサムちゃんに眉間に皺を寄せたら、白石くんが毒手の方の腕を上げた。「え?」と呟くと、金ちゃんが下から「今日はパーティーや!」と言うから「えええっ」と声が大きくなる。
「なんやお前ら、そんなん用意してたんか。コケシやろう、おおやろう」
「いらーん」
金ちゃんが笑いながら私の手を引くから、小さな割には強い力について行った。白石くんが「ナマエさん入るでー」と部室に声をかえると、中から小春ちゃんの「はーいっ」という声が聞こえた。
「ほらオサムちゃんも」と白石くんがオサムちゃんの背中を押し、私の後ろに立たせると金ちゃんがにこーっと笑ってドアを開ける。
瞬間、響き渡るクラッカーのはじける音。
「ナマエさん、オサムちゃん、おめでとさーん!」
色とりどりの折り紙や画用紙で彩られた部室は途中から明らかに悪ふざけが過ぎていて、カオスとしか言いようがなかった。
びっくりしていたら後ろのオサムちゃんが「お前ら、部室を何やと…」と笑いながら呟いて私の肩を抱いて中に踏み込む。
「良かったなぁ、オサムちゃん。ナマエさんおらへんかったら一生独身やで」
「ユウくんもそういういい子見つけなねぇ」
「こ、小春ぅ!」
「ナマエさんほんまありがとう、オサムちゃんに一生ついてくこと決めてくれて!そんな勇者アンタだけや!」
「謙也は正直たいねぇ」
「いやお前が一番正直や」
オサムちゃんが千歳くんにつっこむから笑う。オサムちゃんは「お前らなぁ」と私の肩に置いた手に力を入れて、私を自分の方に引き寄せていつものだるい口調で言った。
「ナマエさんこう見えて俺のことめっちゃ好きやからな」
「はいはいノロケお疲れさんですー」
ユウジくんがそう言うと、白石くんに何かを渡した。白石くんが「おお、ありがと」とそれを受け取ると「ナマエさん」と私に笑いかける。
「これ、俺らからのささやかやけど、お祝いです」
「え…」
「アルバム。今まででナマエさんの写真、結構あったんです。これでもみんなで選りすぐったんやけど」
中をぱらぱら見ると、切り貼りされた私やオサムちゃん、みんなの写真が画用紙で作られた吹き出しやシールに彩られて、写真に引き起こされた思い出が騒がしく頭に入ってきた。所せましと並ばれた写真はほとんどが笑っていて、自然に口の端が上がっていく。
オサムちゃんは私の手の中にあるアルバムを覗き込むと、ぽつりと呟いた。
「ナマエや」
この中に、私がおる。
そう思うと涙腺が急に震え始めて、あっという間に涙が出た。アルバムで顔を隠すと金ちゃんが「ナマエっ?」と驚いたように私の服を引っ張った。
「わわっ」
「泣かせた!」
「蔵りんダメじゃない」
「いや俺ちゃうやろっ」
「ナマエさん、大丈夫ね?」
「ナマエだいじょうぶかー?」
みんなの声が当たり前にあることも嬉しくて、私は完璧に部外者で関係ないのに、みんなにたくさんのものを貰ってて、オサムちゃんもこんなに近くにおって、なんやもう、幸せやなぁと思った。
オサムちゃんがぽんぽんと私の頭を叩く。そして「よっしゃ、ほな新婚夫婦のためにお祝いしてやー」とお菓子やジュースが並ぶテーブルに歩いて行った。
みんながテーブルの周りでわいわいしている間にポケットからティッシュを出して化粧が落ちないように涙を拭いていたら、光くんがやってくる。
「…ども」
「はは、光くんも、ありがとうな」
「オサムちゃん、めっちゃ調子乗ったこと言うてますよ」
「もうええわ、ほっとき。めっちゃ好きなんも事実やし」
「まぁオサムちゃんもナマエさんのことめっちゃ好きですけどね」
「えー?」
「たまにノロケばっかで、ほんま、ウザいっすわ」
光くんはそう言うと「これ、うちの姉…兄貴の嫁さんからなんですけど、渡せてうるさくて」と綺麗に包まれたプレゼントを渡してくれた。きょとんとしていたら光くんはそそくさとテーブルに行くから、多分、恥ずかしかったんだなと思う。
「ナマエ」
オサムちゃんが少し振り向いて私を呼んだ。みんながいて、その輪にオサムちゃんがいて、そのオサムちゃんの煙草くさい胸に飛び込んで、そんな、小さくて優しい幸せが、私とオサムちゃんに、愛しい君たちに、これからも当たり前のように、けれど特別に、ずっと続いていきますように。
20120529
二十万打フリリク@きいさん