女子テニス部の部長になって、ため息が増えた。一つ考え始めると問題がどんどん出てきて、体中を全部埋め尽くすからため息で追い出すしかなかった。けれど、少し楽になった瞬間から悩みをまた思い出してすぐ埋まってしまう。エンドレスエンドレス、疲れた。すごく疲れた。
 男子テニス部が終わるのを待っている間、何度もため息をつきながらいろいろと考えた。一年生のこととか、少しギスギスし始めた同級生たちのこととか、上手くプレーできないこととか、そんな悩みを解決できるような技術を持っていない自分が嫌になったりだとか。何度も何度もため息をついた。

「ナマエ」

 ブン太の声に呼ばれて、いつの間にか落ちていた視線を上げる。制服に着替えて、厳しい練習をしてきたことなんか見せないように笑うブン太を見たら、ため息で吐きだすものが目からあふれ出た。
 急に泣き出した私を見て、ゆっくり歩いてきていたブン太は「おいおいおい」と少し焦ったように言いながら駆けてきた。

「どうしたんだよ」

 駆けてきながら手を広げてくれるもんだから、つい飛びこんでしまった。ブン太は私の背中を叩きながら、呆れたように言う。

「まーた溜めこんだな」
「だって」
「だってじゃねぇよ、言えって言っただろぃ」

 背中を叩いていた手を止めて、ブン太はぎゅうと私を抱きしめた。しぼりだされるみたいに涙がまたドッと溢れて、ひどい顔になったから下を向きながら涙を拭いた。じわじわじわじわ何かが出ていく、涙みたいな、こう、悲しいものが。

「ブンちゃあああ」
「はいはい」

 ぽんぽん、と頭を撫でてくるからその度に涙がこぼれた。いつだったかブン太が弟くんにこんなことをやってたなぁ、と頭の隅で思いながら吸っても吸っても苦しい呼吸を整えた。大丈夫、大丈夫、大丈夫。

「大丈夫だから」

 言い聞かせていたことをブン太が言ってくれたからまた泣いた。何でブン太は私が欲しい言葉をぽいっと放るようにいとも簡単に言ってくれるんだろう、好きだなぁとまた涙が出るから困ってしまう。

「もうやだよーつらいー」
「溜めこむから」
「だって、甘えっぱなしでいるわけにもいかない、し」
「泣かれる俺の身にもなれっての」

 えっ?と顔を上げると、ブン太は「ひでぇ顔」と笑って私の手の中にあったハンドタオルを奪ってごしごしと私の涙を拭いた。

「いた、痛いブン太っ」
「我慢しろ」

 弟くんたちにするみたいに少し力強くて嫌だったけど、最後に乱れた前髪を遠慮がちに優しく直してくれたから黙ってしまう。ブン太は黙った私に満足そうに笑い、また零れそうになった涙を力任せに拭いた。

「よし」
「…ごめん」
「別に。でも辛くなったらすぐ言えよ」
「…うん」
「うちに来てもいいし。美味いもん作ってやるから」
「うん、食べたい」
「俺と付き合ってて良かったな」

 わざとそう言って茶化しながら私の頭をポンポンと叩くブン太を見上げていたら、本当にこの人で良かったなぁ、この人に愛されるのは幸せなことだなぁ、という感情でいっぱいになって、乾かない眼球からまた涙が零れた。また小言を言われる、と思ったからブン太の胸に顔を押し付ける。

「ありがとうブン太、大好き」
「知ってる」

 出た出た、とブン太の胸の中で笑いながらため息を吐いてやった。問題は山積みで見通しも立たないんだけど、なんというか、それでも、これは、はぁ、幸せだ。


20120421
二十万打フリリク@りむさん
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