私がばっさりショートカットにしたら、亮は最初「誰だ…!?」と言う顔をした。幼馴染で彼女にその顔はないだろうと思ったが、すぐに「お前…どうした…」と言うから笑ってしまう。
「髪の毛切ったから見せに来た!」
「ビビった…」
「どう?可愛い?可愛い?」
「へーへー。上がるか?」
「うん」
亮に言われたから遠慮なく家に上がった。階段をのぼりながら寂しくなった首元を触ると、なんか変な感じがした。いつもは慣れてるといえ少しでも可愛く見せたくて髪の毛を整えようと必死だったのに、短くなったからそんな必要もなくなった。
なんか、急に不安になってきた。もしかしたら、長い方が良かったかな。長い方が女の子らしく見えるし。
「あ、綺麗になってる」
「昨日片付けた」
亮がそう言いながら床に座るから、私も亮の隣に座った。いつもの位置だけど、一瞬、亮がほんのちょっとだけ私から遠ざかったのを私は見逃さない。
「…亮くん」
「あ?」
「もしかして照れてる?」
「………違う奴みてぇ」
そう言うと、亮は頭をがしがしかいた。頬はほんのり赤くて、私の方を見ようとしない。
違う奴みたいって。ナマエはナマエですよ。あなたの幼馴染で彼女のナマエですよ。何だか嬉しいような恥ずかしいような嫌なような。髪の毛切ったくらいで、距離とらないでよ、ちょっとだけでも近かった分だけショックだよ。
「亮が髪の毛切ったときはそんなことなかったけどね、私は」
つい、ちょっときつい言い方になってしまって「しまった」と思ったけど言ってしまったものは仕方がない。あんまり怒ってないよというのを示すためにも唇をふざけてとがらせてみると、亮がフッと笑った。
「嘘つけ、すっげー動揺してただろ」
「…」
覚えてたらしい。
でも、だからって違う人みたいって距離を置いたりしないもん、何さ、亮の薄情者。
「ねーねー」
「あ?」
「長いのと短いのどっちが良かった?」
そう聞いたら亮は私を少し長く見つめた。え、まだ見るかってくらい見つめた。そして眉間に皺を寄せると「別に…」とつまらない感想をもらす。
「恥ずかしがってたくせに!」
「もう慣れたっつーの。中身まったく変わってねーし」
「じゃあもっとこっち来てもいいよ」
「へーへー」
分かった分かった、とでも言うように亮は私の頭に手を置くと立ち上がった。財布をポケットにいれると「コンビニでも行くか」と言うから「行く!」と叫ぶ。
そしたら亮はいつものように手を差し伸べるからいつものように手を掴み、立ち上がった。そのまま亮が逃げないようにぎゅっと力を込めれば「なんだよ」と笑われる。
「急にイメチェンしたから近所の人が見たら亮くんが浮気してるって思うかもね」
「俺がナマエ以外とここらへん歩くかよ」
じゃあ違うとこなら私以外の女と歩くのか、なんてそんな可愛くないことは思えない。だってこの男はそんな男なのだ、昔から、いくつになっても変わらないし髪を切っても変わらない。
昔馴染みが少しイメチェンしただけで動揺する男だけど、ね、そこがまた好きだなぁって。ちょっとしたら慣れてまたいつも通りになっちゃうんだけど、やっぱりこれが一番心地いいし、亮らしい。
「亮くん一途だしなぁ」
「うるせーよ」
「否定しないからなぁ」
「うるせーよ」
「いたっ!」
「激ダサ」
「笑うな!」
201200529
二十万打フリリク@奈保さん