暑い。なんという暑さ。カレンダーを見ても「夏だなぁ」なんて思わないのに、この太陽と空を見ればつい「夏だなぁ」と呟いてしまいたくなる、それくらい暑い。
 首の後ろの髪の毛が汗のおかげでくっついていることに気付いた。髪の毛を手でひとまとめにして少し上げれば、ささやかな風が通って少し涼しい。
 あーゴムでも持ってくればよかった、これだけでも随分違う。

「おー、うなじじゃ」
「…」

 後ろからやってきたのは仁王だった。さっきまでコートでラリーをしていたので汗だくである。仁王は私の隣に置いてあったドリンクを口に含むと、にやりとした。
 いや別にかっこいいとか思いませんけど。

「興味ないくせに」
「可愛くないのう」
「はいはい。タオルは?」
「ん」

 タオルを渡すと仁王は顔の汗を拭いて、首元にもタオルを押さえつけた。それと同時にぴょこんとしっぽのように結ばれた髪の毛が見える。
 わーいいな、仁王も髪の毛長いけど結んでるから涼しそうだしあの結び方は邪魔にもならなさそう。

「いいなーそれ」
「?」
「髪、涼しそうだね」
「ナマエは結ばんのか?」
「ゴムなくて」
「結んじゃろうか」
「えっ」

 仁王はそう言うとポケットから輪ゴムを取り出したから慌てて腕を掴む。

「待て待て待て!」
「冗談ナリ」

 仁王はにやっと笑うと、反対のポケットから普通のヘアゴムを二つ取り出した。ちくしょう、からかいやがって。

「ってか何でそんなの持ってるの、ヘアゴム」
「予備じゃ」

 なるほど、仁王の髪の毛を結んでるのってゴムじゃなくて紐だもんなぁ。部活中に紐がとれてしまっては集中できないだろうし真田も怒りそうだ。
 割としっかりしてるのだ。テニスに関しては真面目なんだからなぁ。人は騙すけど。

「みつあみ?」
「んーなんか可愛くしてよ」
「ピンがあれば団子でもしちゃるぜよ」
「ないよ」
「んじゃみつあみ」
「えー。まぁ印象はいいか…」
「真田か」

 私の答えに仁王は笑い、丁寧に髪の毛を集め始めた。首元の髪の毛を優しく柔らかくすくいあげるから、ふわっと少し鳥肌が立った。
 うわぁ、ちょっと、今のは、ドキドキした。

「…仁王は器用だねぇ」
「任せんしゃい」
「今度ピン持ってくるから可愛いのしてくれる?」
「真田の印象が悪くならん程度にな」
「わーい」

 あっという間に二つのみつあみが出来て、仁王は作ったみつあみの片方の毛先で私の頬を突くと「できたぜよ」と言う。
 触れば、私じゃ絶対できないような綺麗なみつあみで思わず「おおっ」と驚きが漏れた。

「ありがとう仁王!」
「ん、こちらこそ」
「え?」
「汗かいて頑張ってくれるマネージャーがおってありがたいのう」
「えっ、あ」

 そういえば汗かいてるのに髪の毛結ばせてしまった!
 仁王はもう一度ドリンクを飲むと、ラケットを肩に乗せて「やーぎゅー」と歩いて行った。

「…」

 くそ、だからあいつは騙されても騙されても嫌いになれないんだ!残りの練習も頑張れよ!


20120529
二十万打フリリク@ゆりさん
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