銀ちゃんがソファーでうつ伏せになってジャンプを読んでいたから「銀ちゃーん」と上にのしかかってやった。のしかかるというより寝転がった。銀ちゃんのふわふわの髪の毛が鼻をくすぐるから眉間に皺を寄せたら上からジャンプが降ってくる。銀ちゃんは私を振り向きもせず、読んでいるまんまの状態で後ろに持っていって私にぶつけたのだった。ごつんっ。

「いった!角当たった!角!」
「何してんのナマエちゃん」
「暇そうだったんで」
「どこが!?絶賛読書中だからね!ギンタマンに珍しく夢中だったからね!今週面白いからね!」
「ほんと?次見せて」
「おう、じゃねーよ!どけよ!邪魔なんですけど!」
「わっ、ちょっ、動かないでよっ、落ちる!」
「ったくよー…」

 銀ちゃんは動くのをやめると、ジャンプをソファーからバサッと落とした。そして両手で頬杖をつくと不満そうな声で「暑いんですけどぉー」と呟く。

「ねー今日暑いねー」
「いやお前が乗ってるから暑いんだっつーの、重てぇし」
「重たくない!」
「いってぇ!彼氏の髪を引っ張るんじゃありません!」
「彼女を重いとか言うんじゃありません!」
「とにかくどけって」
「何それ、そんなに嫌なの?何?もう私たち終わりなの?」
「終わんねーよ!何その展開!?」
「じゃあ何でそんなに嫌がるの?」
「…ナマエちゃんの貧相な胸が当たってるんですけど」

 チョップ!
 銀ちゃんの頭頂部に思いっきりチョップを食らわせると、銀ちゃんは「いっ!」と叫んだ。その隙に銀ちゃんの上から降りて、反対側のソファーに座る。貧相で悪かったな畜生。
 銀ちゃんは「ってぇな」と頭を押さえながら起き上ると、なぜかさっき床に落としたジャンプを股間に置いた。

「…」
「…」
「…」
「あんま見ないでくんない?」
「…」

 貧相とか言ってたくせに。恥ずかしすぎる。バカだバカ。
 こっちだって勝手に興奮してる彼氏を見つめる趣味はない、むしろ欲望に忠実すぎる彼氏に呆れるくらいだった。呆れて、さっき銀ちゃんがしてたみたいにソファーにうつ伏せになった。
 テレビでは結野アナが何かのリポートをしている。銀ちゃん気付いてるかな、とちらりと見れば銀ちゃんがこっちに向かっているのに気付いた。

「えっ」
「ナマエちゃーん」

 さっき私が呼んだような声で銀ちゃんは私を呼ぶと、そのままのしかかった。ぎゃあっ。
 そこまで重くないけど身動きがとれない。そして体がぴったりくっついて、その、銀ちゃんの、荒ぶっている部分がよく分かる。この男は!

「銀ちゃん!」
「はーい」
「はーいじゃない!どいて!今できないからね!神楽ちゃん帰ってくるもん!」
「分かってるって。ちょーっとだけ」
「何っ」
「ちょーっとだけイチャイチャしようぜ」
「…」

 銀ちゃんが少し体を浮かせてくれたから仰向けになったら銀ちゃんが唇を押しつけてきた。うう、熱い、恥ずかしい。
 銀ちゃんが唇を離すたびに「トイレ」「トイレでしてね」なんて言ったら銀ちゃんは「わーってるよ、あとちょっと」とぐいぐいぐいぐい来るからちょっと怖いというか不安になった、ここで、私にしろとか言うんじゃないだろうな、みたいな。

「銀、ちゃ」
「あ?」
「あの、早くトイレ行って」
「…」
「神楽ちゃん帰ってきちゃうよ」
「ナマエちゃんよぉ」
「夜にイチャイチャしよう?」
「…」

 苦し紛れにそう言ったら銀ちゃんはにやりと笑って私の額にちゅっとキスをするとトイレに行った。本当、単純でバカな人だなぁ。
 銀ちゃんの足音に重なるように外の階段を誰かがのぼる音がして、神楽ちゃんが元気よく「ただいまアルー!」と帰ってくる。

「おかえり、神楽ちゃん」
「ナマエ、銀ちゃんは?またパチンコ?」
「トイレだよ。どうしたの?」
「今日姐御のとこに泊まりにおいでって言われたネ!」
「あぁ…そうなんだ…」

 銀ちゃんがトイレから出てくると、神楽ちゃんがお泊りしてもいいかと銀ちゃんにねだった。銀ちゃんは今日一番のニヤニヤした顔で「おー行ってこい」と神楽ちゃんの頭を撫でる。
 あぁ、何で銀ちゃんにちょっかいかけちゃったんだろ、数分前の私は大バカだ。
 それでも夜が来るのを少し楽しみにしている自分が恥ずかしい。銀ちゃんのせい、私がバカみたいに銀ちゃんを好きなのも、ちょっといやらしくなっちゃたのも、全部銀ちゃんのせいだ。どうやらバカはうつるらしい。


20120528
二十万打フリリク@下流川碕さん
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