私が働いている甘味茶屋によく来る坂田銀時さん、通称銀さんはいつも死んだ魚のような目をしている。気付けば下ネタを喋ってるし、パチンコでお金をすったり儲けたり、やる気は明らかになさそうだし、これだけ言えば正真正銘ダメ男なんだけど、みんなは銀さんを慕っている。
 その気持ちが分からないでもないのだ。銀さんはすごく喋りやすいし、優しいし、聞けば万事屋を営んでいていろんな人を助けているらしく、すごい人らしい。
 よくよく見れば着物から出ている腕はやる気のなさそうな表情の割にはしっかりしているというギャップがあって、その腕は抱きしめられたら苦しそうだなと思うくらいだ。

「ナマエちゃん、休憩いいよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
「それと、これ食べな」
「えっ、いいでんすか?」
「おいおい、甘やかしすぎじゃねーの、オヤジ」

 休憩のお供にとお団子をくれたオヤジさんに銀さんがニヤニヤそう言った。オヤジさんは「うるせー客だ」ともう一本お団子を出すと、「奴にやってくれ」と言うから笑う。オヤジさん、銀さん大好きだなぁ。

「銀さん、どうぞ」
「お、サンキュー。休憩だろ、座ったら?」
「じゃあ、お隣失礼します」

 銀さんの隣に座ると、銀さんは「愛されてるねぇ」とからかうように言って私が持っているお団子を見た。

「オヤジさんには本当、いつもよくしてもらってます」
「あの人も、孫が生きてりゃナマエちゃんぐらいだもんな」

 銀さんはお団子の串を口に加えたまま長椅子に両手をつき、少し上を向いた。さっきみたいなふざけた顔じゃなくて、あぁこの人は本当に優しい人なんだろうなと思った。
こういう優しいところがあるから、みんな銀さんが好きなんだろうな。

「まぁ老い先短ぇだろうし、よくしてやってくれや」
「もう、そんなこと言わないでください」

 笑って言ったら銀さんはへらりと笑った。この人の言葉は素っ気なくて、適当で、悪い時もあるのにその言葉の後から優しさが溢れてくるみたいで不思議だなと思う。これが魅力、って言うのかな。

「銀さんだってオヤジさん大好きなくせに」
「んなわけねーだろ、あんな頑固ジジイ。団子は美味ぇけどよ」
「あ、オヤジさん喜びますありがとうございます」
「…」

 銀さんは少し照れた顔をして私を見た。そしてさっきあげた団子を見つめながら「団子だけだっつーの、こんな店」とぶつぶつ文句を言っている。
 それが可笑しくて笑ってしまったら、銀さんがわざとらしく「あぁ、あとあれだな」と言うから見れば銀さんはニヤニヤしながら言ってきた。

「看板娘も可愛いからなぁ」

 全身の熱が顔に集まるのは一瞬だった、誰がどう見ても真っ赤になっているであろう顔に銀さんも驚いた顔をして、なぜか銀さんも赤くなる。

「てててて照れ過ぎだろっ」
「す、すいませ、そんなこと言われること、あんまり、なくて」
「あーもうっ!」

 銀さんはお団子を一気に頬張ると頬をリスみたいにして咀嚼する。そんなに一気に入れて大丈夫だろうか、と一瞬心配すると案の定銀さんは真っ赤だった顔をさらに真っ赤にさせて胸をドンドン叩き始めた。

「わわわっ大丈夫ですか銀さんっ!水っ、水っ」

 銀さんは私の言葉に慌ててお茶を飲み、大きな喉仏が大きく上下すると「ぷはぁっ!」と声を出して肩で息をする。
 よ、よかった…と肩を撫でおろすと動揺しすぎて銀さんの腕を掴んでいたことに気付いた。パッと離したけれど、あの、やっぱり、すごくたくましくて、隣でゼーハーと物凄い顔で呼吸をしているちょっとかっこ悪い人だけど、この腕に抱きしめられたいな、とか、思っちゃって、あぁ、オヤジさん、どうしよう、私、この人が好きなのかもしれないです。


20120527
二十万打フリリク@里穂さん
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