休みだからみんなでショッピングモールへ遊びに出掛けたら、裕次郎が消えた。消えたというかはぐれた。あと少しで映画が始まるというのに、携帯も繋がらないし探しても見つからないので別れてみんなで探してるけど、一向に見つかる気配がしない。あのマイペース野郎。
 ってか、あぁ、ダメだ、歩きすぎて足が痛い、新しいパンプスを裕次郎がいるときに履いてくるんじゃなかった。耐えきれなくて近くにあった椅子に座る。はぁ、これは立派な靴ずれだ、痛い。

「ナマエ」
「寛。裕次郎いた?」
「いや、見つからん。足どうかしたんばぁ?」
「靴ずれ、痛い」
「大丈夫か?」
「ちょっと痛みが治まるまでジッとしとくね、ごめん」
「ん」

 寛は何を思ったのか私の頭を撫でた。高いところから大きな手がわしゃわしゃと撫でるからびっくりして、髪の毛を直してる間に長い足で去ってしまっていた。速い。
 パンプスを少し脱いで靴ずれがひどいところを見れば、真っ赤になっていて痛々しかった。絆創膏今日持ってないんだよなぁ…どこかに売ってないかなぁ。
 顔を上げて周りを見渡す。すると、見覚えのある金髪がソフトクリームを持って歩いていた。凛だ。ってか、あいつ、何食べてんだ、と凛を見つめていたら伝わったのか凛がこっちを見た。

「あ」

 見つかった、という顔をしている。私が笑って手招きをすると凛は大人しくこっちに歩いてきた。

「何食べてんのー凛くん」
「ナマエもサボってるだろ」
「私は靴ずれしたんだもん。ちょうだい、それ」
「へーへー」

 凛がソフトクリームを差し出してくれたから受け取り、一口食べた。美味しい。二口目を食べようとしたら「おい、こらナマエ」と怒られたけどお構いなし、いただきます。

「デブ」
「永四郎に見つかったら怒られるから証拠隠滅してあげる」
「うっせ」

 ぎゃ、奪われた。凛はソフトクリームを持っていない手をポケットに入れると「あと何分?映画」と聞くから携帯の時計を見て「あと8分」と答えたら「あーやべーなぁ」と言いながら別段急いでいるわけでもなく歩いて行った。多分誰かが見つけてくれると思っているのである。

「ナマエ」
「おー」

 次にやってきたのは永四郎だった、私から離れる凛の後ろ姿に気付いたのか「平古場くんですか」と呟くから「うん」と返した。ソフトクリームのことは黙っててあげよう。

「裕次郎見つかった?」
「いえ、もういっそ放送してもらって辱めましょうかね」
「それ私たちも恥ずかしいからやめて」
「そうですね。それより、大丈夫ですか」
「え?」
「足、知念くんから聞きましたよ。絆創膏は持ってるんですか」
「持ってない…」
「マネージャーとしてプライベートでも気を配ってもらいたいものですね」
「はいすいません…」
「これを」
「えっ」

 嫌みと共に与えられたのは絆創膏だった。見上げると、眼鏡をくいっと開けて永四郎が呆れたような顔で私を見下ろしている。うう、顔も言葉もきついけど優しいなぁ、ありがたい。

「ありがとうございます部長…」
「しばらくジッとしてなさいよ」
「はい…」

 永四郎は私に注意をするといつも通りのきびきびした動きで歩いて行った。周りの女の人が何人か振り向くから「おぉ」と呟く。背が高いし姿勢がいいからモデルにも見えるのだろう。残念ながら実際ただの中学生です。
 携帯の時計を見ようとしたら電話が鳴った。画面を見れば「甲斐裕次郎」の文字で、ため息をついて通話ボタンを押した。

「もしもし」
『…永四郎怒ってる?』
「怒ってますよ」
『…どうしよう』
「知りませんよ」
『ナマエ…』
「…とりあえず帰っておいで」

 脳内に反省した茶色の小型犬が浮かんだので、放っておけなくなった。裕次郎はこういうのが上手くてずるい。いや、狙ってやってるんではないと思うけど。
 場所を教えてしばらくすると裕次郎がやって来た。裕次郎は「えへ」みたいな感じで笑って来たからつい笑ってしまい、隣に座ると「みんなは?」と聞いてくる。

「別行動で探してるんだよ」
「…」
「映画始まっちゃってるし、呼ぶよ?」
「…おう」
「怒ってるのは永四郎だけだから大丈夫だって」
「それが一番怖い…」
「ははは、自業自得だよ」

 みんなにメールをすると、すぐに集まった。映画が始まる時間だったから近くにいたらしい。案の定永四郎は来て早々裕次郎に「君は何度叱られれば分かるんですか」とか「ゴーヤ食わすよ」とか叱り、みんなは笑いながら呆れた顔をしている。

「まぁまぁ、映画始まってるし行こうよ。まだCMだろうしさ」

 そう言ったら永四郎は「…そうですね、また後にしましょう」と言うからみんなで映画館に向かう。裕次郎が私の隣に来たと思ったら「さんきゅ」と片目を瞑って小さな声で言うから「どういたしまして」と笑って答えた。

 映画を観終わって、少し買い物をしてから帰り道を歩いた。
 映画を見ている間休んだから痛みは治まってたけど、今は少し歩いたから痛い。すると、永四郎から逃げるように私の隣にいた裕次郎が私の変な歩き方に気付いたのか「ナマエ?大丈夫か?」と聞くからみんなが止まった。

「ごめん、大丈夫、靴ずれがね…」
「わ、赤くなってるさぁ」
「大丈夫かー?」
「ぎゃっ、絆創膏とれたっ」
「まだ痛みますか?」
「うん、でも、もうちょっとで家だし」
「おぶってやるさぁ」
「えっ」

 慧くんの言葉に顔を上げたら慧くんがしゃがんでこっちを見ていたから「えっ、えええええ」と声を上げてしまった。すると偶然そばを通った知らないおばぁが「甘えときなさい」と微笑ましそうな笑顔で言うもんだからみんなが笑う。

「そーそー」
「デブでも慧くんなら大丈夫やっさー」
「デブじゃない!」
「それ以上悪化すると困るのはナマエですよ」
「ほら、ナマエ」
「…じゃあ、慧くん、お願いね」
「おー」

 慧くんの背中に乗ると、とてつもない安心感で思わずぶはっと笑ってしまった。しかも高くて、立ち上がった瞬間怖くて「きゃあっ」と叫んだら寛が私の背中を手で支えてくれる。

「でけーナマエ」
「ははは、凛のつむじが見えるよ、ちょっとプリンだ」
「げっ」
「わーすごい、すごいねぇ、慧くん、こんな景色見てるんだねー」

 慧くんの背中から見るいつもの風景がとても変わったもののように見えた。何が変わったかって言われたらなんて言ったらいいのか分からないんだけど、とりあえず、すごい、ドキドキというよりワクワクする、そんな感じ。

「ナマエ、海見えるかー?」

 海は近いけどこの道からは見えない、そんなことを知っていながら凛がからかうように聞くから笑って答えた。

「見えるよー、海」

 ほんとは見えないんだけど、青くて、宝石みたいで、いつでもそこにあるあの海が、私には見える。
 だって、みんなといつも一緒に行くもん。みんなといたらいつだって脳裏に浮かぶよ、あの海、今も、これからも、永遠に、今までのように、笑っても泣いても怒っても、いつだって輝く、私たちの海が。


20120527
二十万打フリリク@あこさん
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