朝方、仕事から帰ってきた銀時はボロボロだった。頭からは血が出てシャツが染められてるし、スーツもところどころ破れている。びっくりして「ちょ!銀!なっ!」と大声を出してしまうと、銀時は「おいっ近所迷惑だっつのっ」と私の手を口で塞いだ。うげ、女の香水の匂い。
 銀時はそのまま私の口を塞いだまま部屋に入った。鼻の奥に突き刺さる香水の匂いが不快で、銀時の手を全力で外したら銀時は「おー悪い悪い」と両手を上げる。

「どうしたの?何?大丈夫?」
「おーまぁな」
「座って、手当てするから」

 銀時を床に座らせて棚から救急箱を取ろうとしたら、手の甲に血がついていることに気付いた。銀時の血だ。あぁもう、しっかりしなきゃいけないことは分かってるけど、やっぱり、動揺する。

「何があったの?」
「ちょっと喧嘩」
「ちょっとって…」
「ガラが悪くていけねーな。お前も夜はあんま出歩くなよ」
「…」

 消毒液に少し顔を歪ませながら銀時はそう言った。女の香水の匂いには何も言わず、か。
 別にホストなんだから隠さなくたっていいのに。一応、信じてるし。一応。

「…銀時」
「あー?」
「別に怒ってるわけじゃないんだけど」
「?」
「香水の匂い、今日は一段ときついよ」
「…」
「またお客さんのためにしたんでしょ?」
「…俺の客じゃねーんだけど、帰りに、会って」
「うん」
「追われてるみたいで、ほっとくわけにもいかねーし」
「うん」
「まぁ次来たら指名してくれっかも」
「うん」
「そしたらドンペリ入れさせっかな」
「うん」

 絆創膏を貼って撫でたら、銀時は私をちらりと見た。一瞬目が合ったけどすぐ逸らしてしまい、何かを言おうと口を開いたら銀時が私の手を掴む。
 大きな手。まんべんなく女の香水がついてるのは分かってるのに、この手が好き。

「…何?」
「いや…その…」
「?」

 私の手を掴んだまま何も言わないから聞いたら、銀時は目を泳がせ始めた。挙句私の指を上げたり下げたりと遊び始めるから意味が分からない。
 何か言いたいことがあるみたいだけど、まだ隠してるようなことがあるんだろうか。

「…怒らないよ?」
「ちげぇよ、そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
「…」

 聞いたら銀時はまた黙った。めんどくさい。言いたいことがあるなら言えばいいのに。そんなことを思っていたら「ドンペリたくさん入れさせたら」と切り出すから「うん」と答える。

「俺の給料も上がるんで」
「はぁ」
「ここ、に、指輪、を、だな」

 銀時はそう言いながら掴んでいた私の左手の薬指を付け根をつまんだ。びっくりして銀時を見れば、私の目を見る余裕もないのか私の隣に置いてあるゴミ箱をジッと見ていて顔は真っ赤だった。
 ホストのくせに。ホストのくせに恋人に甘い言葉の一つもまともに言えないし、かっこよく決めれないし、ホストのくせに仕事が終わるとすぐに帰ってきてお客さんとどこかに行くなんてサービスもなくて、まぁおかげでそんなに稼げないんだけど。ホストのくせに、まっすぐで正直で優しいのだ、この人は。

「うん、楽しみにしてるね」

 笑ったら銀時は真っ赤な顔でちらりと私を見た。これがホストだって、笑っちゃうね。
 明日は休みだからこの後二人でゆっくり寝て夕方頃に起きて外食でもしようよ、これからのことでも話しながら、二人で。別にそれが特別なことじゃなくて日常なんだけど、それでも幸せだね、笑っちゃうね。


20120527
二十万打フリリク@紗那さん
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