私の隣の席は忍足謙也である。誰とでも仲良くでき、イケメンで、えっと、あと、めっちゃええ奴。

「途中から何も言えてへんやないかい!」
「いや、ええ奴で全てがまかなえとるやろ!」

 隣の人のいいところを挙げてみよう!というテーマであった。
 最初はいつも通りにへらへら話していたのだが、今ではお互い背もたれに肘をかけながら言い合いをしている。まぁじゃれてるみたいな感じやけど。

「適当に言うとるだけやんけ!」
「いや全てをひっくるめて、ええ奴!やん!」
「どこがどうええ奴かを言えっちゅー話や!」
「ちょっと待ちや、謙也も私のいいとこ言わんかい!話はそれからや!」
「おぉ言ったろうやないか!ナマエは話してておもろいやろ、んで、盛り上がる、で、あれや、めっちゃええ奴」
「お前もほとんど言えてへんやんけ!」

 そう叫ぶと、後ろの席の二人組が「せんせー、謙也くんとナマエちゃんがやかましいですー」と言った。二人で「なんやと!」と返せば、先生も「お前らもたいがいやかましいわ、しかしまぁ謙也たちもエキサイトしすぎやで、ちょっとボリューム落としや」と言うから仕方なくいったん黙った。
 口を結んで目を合わせると、何だか面白くて笑ってしまった。謙也にいたっては何がツボったのか分からないが、お腹を抱えて笑うからまた笑ってしまう。

「アホや、笑いすぎやろっ!」
「は、ははっ、あかんっ、止まらんっ」
「あ、ほなこれもう一つ追加や、謙也のいいとこ、何でも楽しめるとこ!」
「はははっ、うはっ、ははっ」
「聞けやっ!」

 謙也はひーひー言いながら「ま、待って、待っ」と片手を突きだした。腕を組んで謙也が落ち着くのを見ていたら、謙也は次第に落ち着いて「はー…」と涙を拭いながら私を見る。

「いやぁ、腹筋とれるかと思たわ」
「アンタのツボ分からんわー…」
「俺をここまで笑わせる奴はなかなかおらんで?」
「一日の八割笑とるくせに」
「う…っ。せ、せやけど、お前もやろ。あ、せや、これもナマエのええとこやな!いっつも笑とる!」
「えー?」

 いつもけなし合っているのでそう言われるとつい照れてしまう、えー?という返事も笑って返してしまったし、ほんまや、私、笑とる、なんや恥ずかしいやんけ。

「あと優しいとこやな」

 謙也はそう言うと「あ、これ書き出さなあかんのか」と一度だけペンを回すと配られたプリントに記入し始めた。
 い、み分からん。何で「優しいとこ」が出てきたんやろ、さっきのやり取りでそんなとこ一個もなかったやん、あかん、なんか、めっちゃ恥ずかしい、動揺しとる、私はいっつもニコニコして優しい人ちゃうけど、アホ正直でええ奴の謙也がそんなこと言うから、アホ、っちゅーか、私もプリント書かな。
 忍足謙也のいいところ。誰とでも仲良くできるところ。イケメン…はやめとこ。何でも楽しめるところ。人のことをよく考えられるところ。目が合ったら笑ってくれるところ。手が大きいところ。腕がしっかりしてるところ。
 ん、あれ、待て。

「あ、ナマエっ、消しゴムそっち行ってもうた」
「ん、おー」

 冷静を装って謙也の変な形をした消しゴムを椅子の下から拾い、差し出すと「ありがとさん」と謙也は私の手の平から消しゴムを奪っていった。一瞬触れた手にぴくっと筋肉が反応したけど、謙也は気付いていないくらい些細な反応でそれが連動したみたいに心臓が騒ぎ始めた。
 えええええいやいやいや嘘やろ。

「お、よう考えたらナマエのええとこ出てきたわ」

 俺の方がぎょーさん書けるで!と誇らしげに言うように謙也は言った。アホ、そういうとこがお前のええとこやっちゅーねん、んで、私が、アンタの好きなとこや、アホ。今気付いたわ、アホ。アホ。


20120527
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