例えばの話。
 例えば何かで私が落ち込んで、下を向いていたらジローの大きな声が響いて顔を上げる。そしたら隣でがむしゃらに頑張る亮に気付いて、岳人が飛んで空が見える。うわ、私、何してたんだろ、って思う。私たちは、昔からそんな感じ。
 そんな私たちだったのに、六人が加わった。滝の優しい笑い声につられて笑ったり、忍足がそれを逃がさないように肩を抱いてくれたり、長太郎が後ろにいてくれたり、若が後ろから生意気なことを言って私を奮い立たせたり、樺地の大きな体に安心させてくれたり、前を向いたら、跡部がいたり。
 そう思うと、それ、なんていうのかな、本当に、私、すごく、好き。

 跡部の背中を見ながらそんなことをふと思ったのだった。見慣れてるはずのに、何故かぶわっと、来た。あれ、泣きそう。
 みんなは今から跡部の奢りで食べる焼肉で何を食べるか楽しそうに話しているというのに、私は入れそうにもないから一番後ろを歩く樺地の隣に行った。ジローも起きてるから騒がしいなぁ。

「なーなー跡部!俺羊食いてぇ!」
「好きなだけ食えばいいじゃねぇか」
「最初は牛からだろ」
「いや鶏だろ」
「豚も食いたいんやけど」
「全部美味しいですよねっ」
「結局全部食べるんでしょう」
「毎回お皿の数増えてるし、みんなやるねー」

 みんなバカだー。あんなにギャラリーにきゃーきゃー言われてかっこいい試合をした後とは思えない。涙も乾いて笑ったら、樺地も笑ってる気配がして見上げた。あ、笑ってる。目が合うとすぐ真顔になっちゃったけど。「?」って顔。ね、何で可笑しいんだろうね、いつも通りなのにね。

「ナマエは?」

 岳人が振り向いて私に聞くから、なぜかみんな振り向いた。何でみんな振り返るんだ、と笑って「豚!」と言ったら亮が「共食いだな」とお約束のようなことを言うから、お約束のごとく背中につっこんだ。

「いってぇ!テメェ!」
「そらそうなるわ」
「あ、なんか眠くなってきた」
「うぉっ!くそくそジロー!いてぇよ!跡部の方に倒れろ!」
「何でだよ」

 跡部は笑いながらパチンッと指を鳴らすと「樺地、ジローおぶってやれ」と命令した。後ろの樺地がやってきて、ジローを軽々おぶる。

「今からご飯食べるのに」
「匂いにつられて起きるんじゃないですか」
「ええなぁ、食って寝て」
「その前に遊んでるしな」
「遊びじゃねぇだろ。…いや、ジローにとっちゃ遊びかもな」
「跡部にも認められちゃった」

 そう言って笑って跡部を見たら、跡部もみんなも隣にいた。跡部が前じゃなく、みんなが並んでる。中心なのはやっぱり跡部なんだけど、私たちっていつもこうだよね。みんなバラバラなんだけど目指すものは一緒で、文句を言ったり悪態ついたりして一緒に歩く。
 って、テニスと焼肉比べるのもどうかと思うけど。っていうか怒られそう。いや、うーん、どうだろう、「お前は」って呆れてみんな笑うかな。私、テニスの選手じゃないから分かんないことだらけだしテニスのこと語れるような人間じゃないだけど、とりあえず、みんなのテニスとかみんなで食べる焼肉とか大好きだよ。
 まぁ何はともあれ、だ。

「お腹空いた!」
「出た」
「出た出た」
「ナマエさん今日も頑張ってくださいましたもんね」
「そうだよ長太郎!分かってる!」

 調子に乗ったことを言ったらみんな「へーへー」と言わんばかりに呆れて笑った。ずばずば言うみんなが否定しないから私だって笑ってしまう。

 また、例えばの話。
 例えばいつか私たちがみんな違う道を歩むことになって、毎日のように顔を合わせることもなくなって、こんな風にみんなで一緒に歩くこともなくなったとして、そしたら、やっぱり悲しいというか、寂しいと思う。思うんだけど、多分一生会わないなんてことはないんだと思う。だから大丈夫だと思う。「思う」ばっかりで曖昧なんだけど、でも、だって、なんていうのかな、この風景とか気持ちとか、ずっと変わらないと思うもん、つまり簡単に言ってしまえば。

「あー!好きだ!」

 ちなみにこれ、焼肉食べながら言った言葉ね。恥ずかしいもんね。みんな笑ってくれたからまぁいいよね。ね!


20120518
二十万打フリリク@青子さん
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