「ナマエー」

 教室の後ろのドアから私を呼ぶのは謙也だった。友達と話してたのを中断して「デートか!」「行ってまえ!」とからかうみんなと「ほなまた明日ー」と言葉を交わし、同じように友達と「ほななー」と挨拶を交わす謙也の元へ行く。
 いろんな人に声をかけられて返して、気付けば校門で、どちらともなく手を繋いだ。ちょっと体を寄せてみたりして。

「どこ行くん?」
「どこでもええで」
「何や、迎えに来たからどっか行くんかと思たわ」
「何もなかったら迎え行ったらあかんのかっ」
「…あかんくない」
「照れるんかい」

 そう笑いながら言って軽く私の頭を叩く謙也も少し照れているのを私は知っている。目を合わせないからこの人絶対照れてる。言わんけど。

「あれや、ほな、あれ行こうや、たこ焼き」
「お、ええなー」
「駅んとこの」
「…いや、あかん、そこ今日テニス部のやつらが行くて言うてたような気ぃするわ」
「えーええやん、光くんめっちゃ絡みたい」
「あとでブログにボロクソ書かれるで」
「謙也はからかわれるんが嫌なだけやろ」
「うっさいわっ、他や他!」

 謙也がそう言うからこの間のことを思い出して笑った。今みたいに放課後デートをしていたらテニス部の人たちに見つかり、繋いでいた手を咄嗟に放した謙也に「何恥ずかしがってーん」「いっつもノロケるくせにーえー?」「どこ行くん?なぁどこ行くん?」などと容赦なく絡むみんなに腹がよじれる程笑ったのだった。真っ赤になって「やかまし!」と怒る謙也も面白かったし、部活でも私のことを話していたことが結構嬉しかった。

「買い物?あ、でもお金ないわ」
「食いたいもんとかないんか?」
「せやからたこ焼き」
「以外で」
「えー…うーん…。あ、甘いもん食べたい」
「太るで〜」
「やかましっ」
「いたっ。ほなどっか入ろか」
「おー。あ、っちゅーか謙也は?何食べたいん?」
「あるもん食べるわ」
「私なーパフェかケーキがええなー。あ、クレープとかも食べたい!」
「店探しましょ〜」

 あっちがいいとかこっちがいいとか、あっちもこっちも美味しそうだとか何度も言い合って結局「次はあっち行けばええやん」「確かに」としょうもなく落ちて笑った。
 こっちのお店の美味しそうなパフェを頼むと、謙也は飲み物だけしか頼まなかった。パフェが来て、生クリームとアイスとチョコとフルーツの完璧なコラボレーションに惚れぼれして食べるたびに笑っていたら謙也が楽しそうに笑ったから恥ずかしくなった。見てるだけやのに、楽しいとか、何なん。写メ撮りたい。

「あ、写メ撮るの忘れとった」
「次あっち行った時に、やな」
「しゃーないから謙也撮るわ」
「高いで?」

 そんなことを言いながらいい顔をする謙也に笑ってシャッターを切る。アホや、謙也めっちゃアホや。

「あっちのも撮りたいけどこっちのも撮りたいからまた来よな」
「おー。俺も写メ撮ろ」
「えー食べかけやん、やめ、って撮りよった!」
「はよ食べな溶けるでー」

 そう言われて大人しくパフェを食べた。後で偶然見た謙也の携帯の待ち受けはパフェをアホ面晒して食べてる私で、怒ろうかと思ったけど自分の待ち受けのアホみたいないい顔をした謙也を見たら何も言えなくなった。次は、っちゅーか、これからは、もっとマトモな写メ撮ろうな、と苦笑した。


20120518
二十万打フリリク@イズミさん
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