「ナマエードリンクねぇぞー」
「ナマエ、スプレー持ってきてくれへんか」
「おいナマエ、ボールの予備ねぇんだけど」
「ナマエ〜俺のジャージは〜?」
「ナマエ、てめぇスコアさっさと書けっつっただろーが!」
「書けるかあああああ!!」

 長太郎の怪我を処置しながら、ありったけの力をお腹に込めて跡部を含めたみんなに叫んでやった。一番驚いたのは長太郎で、叫んだ私にあわあわしている。

「ナマエさん、俺自分でやるんで…」
「いや長太郎は悪くない!こいつらだよ!」

 そう言って持っていた消毒液をベンチにバン!と置き、立ち上がる。私の周りをわらわらしていた三年は「あ?」という顔もしていれば「?」や「あーあ…」という顔もいる。更にイラッ。

「何でもかんでも私に頼るな!」
「だってお前マネージャーだろ」
「ドリンクくらい作れるでしょうが!」
「は?」

 は?じゃないよ岳人くん、こっちの台詞ですからね。
 大体、忍足もスプレーくらい自分で持ってきなさい、亮も予備は部室にあること知ってるんだから探しなさい、ジローもちょっと探せば見つかるから探しなさい、跡部もこの状況見たら私が忙しいの分かるだろうに!みんなが使いまくるからタオルだって用意できてないのだ、さっきチラッと見たら救急箱も補充しなきゃだし、洗濯もしなきゃだし、この前の試合のスコアも整理したいし、何より今!長太郎の怪我を治療してるというのに!こいつらは!

「そんなんじゃ私がいなくなったら何もできないよ!」
「え、ナマエいなくなんの?」

 そう言ったのは目が覚めたジローだった。何でこんなときに起きるのか。そうじゃなくてさぁ、とため息をつく私にも気付かず、ジローは隣の跡部のジャージを引っ張る。

「え?まじで?なぁなぁ、跡部」
「…」

 ジローが跡部に聞いているにも関わらず、跡部は私をジッと見ていた。え、何、怒ってる?確かにキレたけど、跡部がそんなに怒ることでもなくないか?
 そんなことを思っていたら、ジローが「えー!」と突拍子もなく叫んだ。みんなの視線がジローに集まる。

「俺、ナマエがいなくなったらすっげー嫌なんだけど!だってナマエ、うちの母ちゃんじゃん!」
「…」
「……笑っていい?」
「…許す」

 跡部がそう言ったから我慢してたけど笑った。母ちゃんって!
 っていうかやめないし、ずれてるし、この空気の中そんなの言えるのあなただけだよジローくん、みんなも呆れて笑いだした。跡部も笑い、ため息をつきながらジローに言った。

「ったく、お前は」
「えーだって跡部黙ってるしさー」
「そうだな、悪い悪い」
「まぁ、あれやな、あんまおかんを頼りすぎるのもアカンってことやな」
「だな。俺も最近洗濯くらい自分でしろって言われるしよ」
「亮んちの母ちゃん怖ぇもんな」
「うっせ」
「ほな俺らはボールとジローのジャージ探しつつ、練習しよか」
「スプレーは部室にあるよ、ドリンクもすぐ作るから。あっ、ごめん長太郎、怪我…」

 ほったらかしにしてしまった、と長太郎を見たら若がパタンと救急箱を閉じたところだった。長太郎がにっこり笑って言う。

「ありがとうございます。でも日吉に手伝ってもらったんでもう大丈夫ですっ」
「もうほんと…若と長太郎はいい子だなぁ…」
「本当の母親みたいになってますよ」

 若が小さく笑ってそう言った。長太郎も「だってナマエさんがいないとダメだもん俺たちっ」と言うからもう笑うしかない。笑ったら樺地がやってきて、タオルを持ってきてくれた。

「えっ、用意してくれたの?」
「ウス」
「樺地もいい子だー!ありがとう!」

こんな時に影で支えてくれるのはいつも樺地だ、本当にいい子。でも、いやーな空気を壊してふわふわしたものに変えてくれるジローとか、それを読み取って発言してくれる忍足とか、何でも言ってくれる岳人とか亮とか、まとめてくれる跡部とか、優しい長太郎とか、しっかりした若とか、誰ひとり欠けたらいけないなぁと思う。
 こういうのって、自慢の息子だっていうより、なんていうのかな、家族みたいなそんな感じだなぁとふと思った。たまに鬱陶しいしイラッとするけど、やっぱり、みんながいないと楽しくないし、みんなのために頑張れる、さて今日も頑張ろう!
 そんなことを思っていたら、跡部と目が合った。跡部がフッと笑うから「何?」と問えば、「いや…」と前髪をかき上げる。

「俺たちが言えねぇこと言ってのけるな、あいつは」

 とジローを見て言った。
 大丈夫だよ、分かってるよ、だって私君たちのお母さんだもん。


20120502
二十万打フリリク@まこさん
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