「あーなんか今無性にシチュー食べたい」
「ええな〜そら暖まるで〜」
「俺は羊食いたいな〜」
「俺は粕汁やなぁ」
「俺唐揚げ!」

 部活中、合間に並んでぼんやり呟いた言葉に忍足、ジロー、岳人が食いついて微妙に盛り上がった。忍足以外は寒さに身を縮ませて、空いたお腹に想像したものは毒だった、早く部活終われ。
 流れで岳人は近くの亮にも話題をふる。「亮は?」と聞くけれど、亮は集中してる様子で縄跳びをしていて答えない。ムカッと来たのか、岳人は更に大きな声で言った。「おい、亮!」と言ったら亮はすかさず「肉!」と返す。

「いいね肉!」
「肉!」
「羊!」
「いや豚トロ!」
「牛」
「何でもいいから焼き肉行きてぇ!」

 凄まじい盛り上がり様だった。最後の岳人の言葉を皮きりに、視線が隣のコートで若と打ち合う跡部に集まる。
 しばらくすると打ち合いが終わってコートを出ようとした跡部が私たちの視線に気づき、こっちにやってきた。ちょいちょいと手招きをする。

「何かあったか?」
「今日さ、跡部暇?」
「ああん?」
「焼き肉行きたい」
「最近行ってへんしなぁ」
「親睦でも深めようじゃないか!」
「…それでサボってんのか?」
「えっ」
「あ」
「くだらねぇこと言ってねぇで練習しろ!」

 跡部がそう怒鳴ったので蜘蛛の巣散らすように逃げた。亮は相変わらず気にせず縄跳びをしていたので岳人が忌々しそうに呟く。

「くそくそっアイツが言い出しっぺのくせに!」

「シチュー食べたい」
「出た」

 部活が終わって部室に行き、部誌を書きながら呟くと忍足が着替えながら呆れたように笑った。すると同じく着替えていた跡部が聞いてくる。

「焼き肉はもういいのか」
「もう何でもいいから食べたい」
「じゃあとりあえずどっか食いに行くか」
「まじか跡部!」
「跡部様!」
「やったー!」
「焼き肉」
「肉やな」
「焼き肉!」
「肉!」
「結局焼き肉じゃねぇか」

 岳人、私、ジロー、亮、忍足が焼き肉コールをするので跡部は笑った。何だかんだ言って跡部は優しいからみんな嫌えないんだろうなぁと改めて思う。
 跡部はみんなより着替えるのが早く、キュッと綺麗にネクタイを締めながら言った。

「ちょっと生徒会に顔を出すから着替えたら待ってろ」

「跡部おっそい」
「腹減った」
「なんかあったんやろか?」
「腹減った」
「連絡してみっか」
「腹減った」
「がっくんうるさい」

 数分前から同じ言葉を繰り返す岳人に一括し、亮の提案に同意して携帯を取り出した。ちなみにジローは寝ていて、若と長太郎は帰ってしまった。
 跡部の携帯に電話をかけるとすぐに跡部は出た。

「もしもし跡部?」
『悪い、もう少しかかる』
「何かあったの?」
『ちょっとな。20分くらい待てるだろ』
「待てるけどさ。じゃ、部室にいるから」
『あぁ』

 電話を切って閉じると、忍足がすかさず「なんて?」と聞くから「あと20分くらい待ってろだって」と答えるとまた岳人が「腹減った」とつぶやいたから無視をした。それにしても、と続ける。

「跡部の声って電話だとさらにいい声だよね」
「なんだそれ」
「電話って声変わるじゃん。忍足との電話なんか変な感じになる」
「それ褒めとるん?」
「…多分」
「もうナマエには電話せぇへんからな」
「じゃあメールでお願いします」
「腹減った」
「岳人うるせぇよ、黙れねぇのか」
「でも跡部の声って一年の頃は高かったよね」
「…そうか?覚えてねぇ」
「忍足との声と比較しては思ってたよ」
「また俺か」
「別にけなしてはないじゃん、うるさいなぁ」
「腹減った」
「ダブルス2うるせぇ」
「イジメや」
「すぐイジメとか言うのうるさい」
「で、跡部いつから声変わったんだ?」
「分かんないけど変わったよ。男の子だねぇ」
「オバハンか」
「ほんとうるさい」
「すんまへん」
「ジローと亮と岳人はあんま変わらなかったよね。変わったのは背くらいだよ」
「お前が気づかんだけで変わっとるんちゃう?」
「そうかなぁ」
「いっつも一緒におると気づかへんもんやで」
「確かに背はいつの間にか伸びてた」
「せやろ?」
「あとで聞いてみようかな」
「自分で分かるもんなのか?」
「分かんないけど」
「腹減った」
「ほんとお腹空いた、跡部まだかな」
「な」
「腹減った」
「岳人の気持ちも分かるわ、腹減った」
「ねー。何食べようかなぁ」
「俺カルビ食いてぇ」
「ええなぁ」
「羊ー!」
「わっ」
「びっくりした!」
「急にでけぇ声出すなよジロー!」
「あ、私タン食べたい」
「ハラミもええな」
「いいねー、ホルモン」
「あー腹減ったー」
「ビビンバ」
「もう何でも入る気がする」
「同感」
「あ、来たんじゃね?」

 そう言って亮が部室のドアを見たからみんなの視線がドアに集まった。するとすぐにガチャ、とドアが開いて跡部が帰ってきた。

「悪い、遅くなった」
「あ、跡部だ」
「跡部」
「何や懐かしい気がするな」
「うん、何だっけ」
「跡部の話してたよな」
「してたしてた」
「何だっけか」
「分からん、腹減った」
「腹減った」
「早く行こう跡部」
「お前らな…。ったく、ジロー起こせ」
「あ、また寝てる」
「ジロー起きろー!!」
「だから急にでけぇ声出すなよ岳人!」
「…さっきはジローにそう怒ってた気ぃすんねんけど?」
「お腹空いた」
「せやね」

101125

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