「ケーゴどこにいますか?って聞かれたら跡部だよね?」
「ケーゴぐらいどこにでもいんじゃね?ってか誰に聞かれたんだよ」
「金髪の外人。目が青くてセクシーだった」
「あーじゃあ跡部かもな」
「ね」

 がっくんと一緒に部室から出てそんな話をしながらコートに向かってると女の子の悲鳴が聞こえた。女の子の悲鳴がすればたいてい跡部が何かパフォーマンスをしたと判断するけれど今日の悲鳴は何だか違った。いつもは歓声に近い悲鳴だが今日はまさに「悲鳴」だ。所々で悲しげに、且つヒステリックに「跡部様ァ!」という声が上がっている。

「…跡部がついにやられたか?」
「行こうか」

 小走りでコートに行けば、跡部を見つけるより早く忍足がいてがっくんが忍足に話しかけた。忍足は呆れたような顔をしている。

「跡部がどうした?」
「金髪の姉ちゃんと挨拶しただけや」
「挨拶?」

 忍足の指差す方向を見れば、跡部とさっき言っていた金髪の女の子がハグをしてお互いの頬を近づけるような仕草をしていた。なるほど、挨拶だ。外国の。この光景を見て女の子たちが悲鳴を上げだのだろう。
 ふわふわした金髪を見ながら、さっき声をかけられたことを思い出した。すれ違う瞬間に私を襲った香水の強さに酔いそうになったのだ。香水が嫌いというわけではないが、まるで私を浸食しようとしているようなあの強さは好ましくないと思う。
 跡部と女の子は何かを話しているが、まだ続く悲鳴やら叫びやらで聞こえない。

「何て言ってるか聞こえる?」
「英語だろ、あれ」
「あ、そうなの。忍足分かる?」
「早すぎてよく分からん」
「長太郎呼んできてよ」
「あいつ今日委員会って亮が言ってたぜ」
「何委員だっけ」
「…忘れた」
「お、離れたで」

 適当な会話をしていると女の子がまた跡部にハグをし(周りの悲鳴再び)、「Bye!」とコートから出て行った。彼女が今から跡部のファンたちに囲まれないことを願おう。
 三人で跡部を見ていたら、気づいた跡部が嫌そうな顔をしてこっちにやってきた。嫌なら来なければいいのに、と思う。

「何だよ」
「こっちのセリフだっつーの。今のやつ何だったんだ?」
「イギリスにいたころのな」
「え、もしかして同い年?」
「あぁ」
「すご!年上かと思った!」
「俺も」
「元カノとか?」
「違ぇよ」

 跡部はため息をついた。もしかしたらさっき嫌そうな顔をしてこっちに来たのは私たちが嫌だったわけじゃないかもしれない。明らかに跡部の顔には「疲れた」と書いてある。不意に忍足を見ると、忍足も気づいたのか肩をすくめた。

「…跡部疲れてる?」
「まぁな。今夜うちに来るんだと」
「久しぶりに会ったんでしょ?いいじゃん」
「ああいう輩はスルーするのにも体力使うんだよ」
「あ、そういうことね」

 つまり狙われてる、と。跡部はめちゃくちゃ金持ちだもんなぁ。

「ってか今日放課後マック行くつもりだったのにね」
「行く」
「行くって、あの姉ちゃんはどないすんねん」
「知るかよ」
「ひっど。嫌われるよ?」
「俺様が、か?」
「…すいませんでしたー」

 跡部は髪をかきあげて少しため息をついた。その瞬間に跡部の香水を浸食した彼女の香水の匂いがして思わず息が詰まった。きつい。後退りすると忍足にぶつかって咄嗟に「ごめっ」と言う。

「どないしたん」
「跡部香水くさい…」
「うわ、ほんとだ。さっきの奴のか」
「お前香水ダメやったか?」
「きついのは無理、気持ち悪くなる」
「…着替えてくる」

 跡部はそう言ってジャージを脱ぎながら部室に向かう。香水の匂いがしないのを確認して深呼吸すると忍足が笑ってることに気づいた。

「どうしたの」
「いや、あの姉ちゃんに嫌われてもナマエに嫌われるんは嫌なんやなと思って」
「ナマエが怒ったら茶とかめちゃくちゃ薄くなるからな」
「あれ作るのけっこう難しいんだよ?味はするけど不味いっていうラインを探さなきゃいけないから」
「そこまでして仕返ししたいんやな」
「当たり前ですね」
「ナマエちゃん怖いわぁ」
「一途なの」
「一途の意味が違ぇーよ」


100415

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