「ナマエって桑原くんと付き合ってるってほんと?」

 これで何度目だろうか、何度も何人にも「違います友達です」と返すのは。
 そういう噂は波紋のように広がっていくにも関わらず、私の否定はまるで「砂浜に書いたので波紋で消えちゃうよー」という感じで広がらないのである。待てこら私の話を聞いてくれ。
 どの部活でもマネージャーになればそういう類の噂が流れるのは分かっていたが、よもや自分がその対象になるとは思ってもいなかった私はこの事態に文字通り頭を抱えていた。どうしてこうなった。私はあの個性しかないメンバーの中でジャッカルにオアシスを見出しただけだというのに。
 そんな頭を抱えた私の頭に「ナマエさーん」と声をかけてきたのは赤也だった。ゆっくり頭を上げると、赤也は楽しそうな顔で笑っていた。こいつも噂を嗅ぎつけたのだろうか。

「二年の間でも噂になってますよ!」
「一発でいいから殴らせて」
「わー!ちょっと!」
「真田よりは痛くないから大丈夫」
「そういう問題じゃないっす!」

 笑いながらもそう言う赤也に少しいらっとしつつも「何?」と聞けば、赤也は三年の教室に来ているのにも関わらず当たり前のように私の前の席に座った。相変わらずの図太い神経だ。

「ジャッカルさんが様子見てきてくれって」
「ジャッカルうううう…」
「ナマエさんってやっぱりジャッカルさんが好きなんスか?」
「違います。ジャッカルは私のオアシスなんです」
「ふーん?」
「他の奴らは我が強いし」
「はは、確かに!」
「あんたもだよ」
「えー?」

 そうっすかねー?と本気で言う赤也に思わずため息が出た。全員無自覚だから尚更質が悪いのだ。この上ジャッカルというオアシスまで奪われて、私ったらなんて可哀想なのかしら。

「じゃ、次は俺がオアシスになりましょーか?」
「はいはいありがとー」
「あっ適当」
「何してくれんの?」
「んーじゃあとりあえず、俺と仲良くしてたらいいんじゃないんスかね?」
「それ私ただのビッチじゃん…」
「ビッチ?」
「うん、ごめん、気持ちは嬉しいよ、ありがとう」

 しまった、赤也には早かったか、と投げやりに答えて赤也の頭を撫でると「あー!やめてくださいよ!」と声を上げた。ワックスでセットしてたらしい、手がちょっとベタついた畜生。でもちょっと嬉しかったから許すか。

 HRが終わって、友達に捕まらないうちに部活に行こうとサッと鞄を肩にかけたら「ナマエ」と仁王に呼ばれた。隣にはブン太もいて、部活のことかな?と二人の元に行く。

「何?」
「部活行こーぜ」
「行くけど…何、気持ち悪い」
「誰のためだと思ってんだよ」
「は?」
「噂じゃ。テニス部の奴ら全員と仲いいってことを証明すりゃいいってブンちゃんが」
「お前も賛同しただろうが!っつかジャッカルのためだっつの、こんなブスと噂立てられて!」
「ブスじゃないし!」
「ブース!」
「廊下で騒ぐな!」

 聞きなれた怒声に、私とブン太は思わず肩を震わせた。見れば、真田と柳生と幸村と柳がいた。何でこんな勢ぞろいなんだ。ちょっと周りの女の子がざわめいてますけど。
 私の表情に気付いたのか、柳がフッと笑って私の思考を読んだような言葉をかけた。

「赤也が提案してきたんだ、噂の件でな」
「え…」
「しばらくすれば収まると思うけど、それまでなるべく俺らといたらいいんじゃないかってね」

 幸村がそう言って笑うからつい「ええええ」という声が出てしまった。嫌がってるのではなく、なんというか、「もう、赤也くん、君って子は!」という感じである。
 しかも、可愛がっている後輩の提案とは言え、みんなが気をつかってくれたことも嬉しかった。ブン太たちなんか自発的だし、もしかして赤也があんなにいい子なのはこいつらのおかげなのかもしれない、とか思ったり。

「じゃあ…あの…よろしくお願いします」

 控えめにそう言うと「じゃ、行くか」と言うブン太の声にかぶせ気味に「あー!」と言う声が廊下に響いた。二年生の教室から急いできたのか、少し息を切らせた赤也が「もう集まってたんスか!?」と言う。

「赤也、廊下は走るなと何度言えば分かる!」
「す、すんませんっ!」
「真田、今日は許してあげて」
「えっ」

 私がそう言ったら赤也が信じられない、という顔をして、みんなも驚いた顔をしていた。私も驚いてますよ、いろいろ。なんかもう、知ってたつもりだったけど君たち本当にいい奴らだね。

「代わりに叱られるから。ジャッカルが」
「俺かよ!」

 もちろん、私たちが廊下にいても噂を気にしてなかなか教室から出れなくて遠目に私たちを見ていて、私のボケに律義につっこんでくれるジャッカルもね。
 何だかんだみんなで部活に行って、何だかんだ噂は次の週にはなくなってました。そしてちょっと見直した奴らの評価はまた降下気味です、これが私たちなんだろうけど、なんか、さぁ、ねぇ、やっぱり私のオアシスはジャッカルだ!


20120407


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -