仁王が告白されている場面を見てしまった。
 あの風貌で遊び人ではなく、結構テニスに一筋な奴とは知っていたし、告白も断っていることは知っていたけれど、その場面を見たのは初めてで、仁王の顔は本当に困っていて、何と言うか、その、あの。

「仁王見るたびに笑ってしまうよ柳生くん…」
「失礼ですよ…」

 割と真剣な相談だったのに、柳生は眉間に皺を寄せてそう言い放った。なのでこっちも眉間に皺を寄せて返してやった。

「深刻なのだよ。仁王が柳生に会いに来るたびにあの顔が思い浮かんでさ…」
「そもそも笑う場面ではないでしょう」
「違うって、なんかさ、こう、仁王も人の子だったんだなぁ的な」
「酷い言い様ですね…」
「だってすぐ人のことを騙すからさー。それなりに罪悪感とか感じてるんだなって。あ、そう、なんか可愛くない?」
「何だかんだで純粋なんですよ、あの人は」
「かもね。そんな感じはする。だから柳生はあんなのと組んでるの?」
「あんなの、ですか」

 柳生は困ったようにクスッと笑った。中学生には思えない大人びた笑いと雰囲気に、猫背で椅子に座っていたけど思わず背筋を伸ばしてしまった。
 柳生はそんな私に気付いたのか否か、頬笑みを保ったまま「もしもの話ですが」と言葉を発する。

「うん?」
「私が仁王くんだったらどうするのです?」
「………」

 心臓が軽く高いところから落ちたみたいな感覚になって、思わず引きつった笑いをしてしまった。
 え、嘘だ、まさか、そんな。
 柳生の眼鏡を向こうをじっと見れば、切れ長でどこか色っぽい目が私を見つめていることに気付いてなぜか顔が熱くなった。椅子の背もたれを掴む手にぎゅっと力を入れると、いつの間にかやって来ていたブン太が「おーいナマエ」と私を呼ぶ。少しホッとしながら振り向くと、柳生をちらりと見たブン太は「仁王知らね?」と言うのだった。

「えっ…」
「柳生んとこ行くっつって消えたんだけど。来てねぇの?」
「いやっ、あのっ」

 慌てて目の前の柳生を、否、柳生?を見ると、柳生はブン太を見ずに私を見つめたまま、いつもの紳士的な頬笑みに少し色気を加えた、なんだか、少しあざとい、仁王のような頬笑みを私に投げかけた。
 それはなしだろ!

「ばか仁王!!」



「ばか仁王!!」

 ナマエはそう叫ぶと少し顔を赤くして教室を飛び出して行った。ちょうど教室に戻ってきた真田に「ナマエ!校舎内を走るな!」と怒鳴られたが、それもお構いなしにどこかへ走って行った。
 俺はそれを見ながら口角が上がるのを抑えきれず、今しがたやって来た丸井に「あ、仁王てめぇ」と呆れた目で言われた。

「そっちかよ」

 柳生の後ろの席に座った俺にそう言って丸井は柳生を見る。

「柳生になってんのかと思ってたぜ」
「プリッ」
「ナマエさんが来る前にやって来たんですよ」

 柳生の呆れた声と共に、“柳生の後ろの生徒仕様”のウィッグを取って髪の毛を整えた。そんな俺を見ながら丸井は「ナマエの奴、勘違いしてたってことだろ」と言う。

「比呂士もグルかよ」
「いえ、私は普通に雑談していただけですよ」
「よく言うのう、勘違いさせるようなことを言ったのは柳生じゃろ」
「あくまでも興味で聞いたまでのことです。それに、君が後ろにいるのにあのまま話し続けていては可哀想でしょう」
「まぁそういうことにしてやるぜよ」
「よく分かんねぇけど、何の話してたんだ?」
「強いて言えば、仁王くんの純粋さについて、ですかね」
「はぁ?」
「やぎゅーーーー」

 それはなしじゃろ。


20120407
柳生は柳生で、仁王は柳生の後ろの男子生徒に扮していたっていう。分かりにくくてすいません…

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