「ナマエー!ちょ、ナマエー!」

 テンパった謙也の声に思いきり振り向くと、コートの中心で光が寝転んでいるのが目に入って慌てて駆け寄った。謙也の声と私に気づいたみんなも光に駆け寄り、光は眉間にシワを寄せて悪態をつきながら謙也を睨みつける。

「転んだだけで大袈裟に…」
「せやかてお前思いきりいったやん!血ィ出とるし!焦るわ!」
「ほんまや血ィ出とるやん!」
「結構な傷ばい、大丈夫ね?」
「大した事ないッス。っちゅーかナマエさん、救急箱は」
「あっ、慌て過ぎて持ってくるの忘れとった!」
「アホか」
「せやから俺が持ってきたで」
「おぉ!さすが小石川!」

 「さすが副部長や!」「さすがケン坊や!」「地味やけど!」「地味言うな!」とみんなが言う中で私は救急箱を開く。消毒液と絆創膏、包帯を取り出して光の膝を見ると思ったより血と土がついていたから「水で洗わな」と言いかけると、後ろからペットボトルが現れた。

「銀」
「これを」
「ええんか?」
「歩かせるわけにもいかへん」
「いや、これくらいなら大丈夫ッス」
「甘えとき、光」

 白石がそう言うと光はまた眉間にシワを寄せて、立ち上がろうと少し浮かせた腰を下ろした。そして小さく呟く。

「なんやねん」
「なんやその態度は!先輩が優しくしとるっちゅーのに!」
「ユウくんは何もしてへんやないの」
「こ、小春ぅっ」
「ほらほらナマエちゃんの邪魔になるやろ」

 そう言って小春ちゃんがユウジを止めてくれたから私は傷口を洗い流した光の膝に消毒液の口を向けて「ちょっと染みるで〜」と声をかけた。それと同時に光の後ろにいる金ちゃんが「痛い痛い痛い」とでも言うような顔をしているのが見えて笑ってしまう。

「何ッスか」
「金ちゃんがすごい顔しとる」
「それ痛いやん!」
「ガキか」
「光は泣かんといてや〜」
「泣かんわ」
「いくで〜」

 シュッと消毒液をかけると、光は眉間にシワを寄せたままで少し眉を動かした。やっぱり少し痛かったらしい。それを誤魔化すように光は声を低く呟いた。

「…っちゅーか、俺のことはいいんで練習続けてください」
「せやからお前は…!」
「絆創膏貼ります〜」
「邪魔すんなナマエ!」
「ユウジ」
「なんや白石!」
「湿布持ってきてくれへん?」
「…浪速のスピードスターに任せろっちゅー話や!」
「いや、それ俺や俺!!」
「ちょ、ええですユウジ先輩」
「ユウくんもう行ったわよ〜」
「チッ…」
「光アンタ」
「ちゃう」
「嘘つけ、足くじいたんやろ」

 と、足首を触ろうとすると光はすごい勢いで私の手を止めた。

「…」
「……」
「嘘ついたら白石の毒手にやられるで!」
「………アホ」
「はい。スプレーかけるで」
「…」

 光は私の手を離すと、はぁーとため息をつく。それを見て白石が呆れたように声をかけた。

「結構いったやろ」
「別に。明日には治ってますわ」
「何にしろ今日は見学やな」
「とりあえずベンチに運ぶか。肩貸すで」
「大丈夫です。一人で歩けます」
「そんな強がり言うたら千歳にお姫様抱っこで運ばせるで」
「おぉ、優しく運んでやるばい」
「謙也さんお願いします」
「ふられたてもうたな、千歳!」

 金ちゃんの言葉に笑った。光はまた悪態をつきながらも謙也に肩を借りてベンチにたどり着き、小石川が体を冷さんようにと持ってきたジャージを羽織る。
 帰ってきたユウジが「一枚五百億両やぞ!」と湿布を光に突きつけ、光が冷やかに「つまらんし」と湿布を奪い取るからまた喧嘩が始まった。

「もう、仲がええんやから」
「仲良くなんかないわ!俺が一番好きなんは小春だけやし!」
「ほんまキモいッスわ」
「なんやと!」
「…ありがとうございます」
「…なんやと?」
「え、今ありがとうございます言うたやろ光くん」
「ええから仕事してください」
「いや言うたやろ!なぁ!」
「やかましい」
「言うたもん!なぁ!白石!」
「湿布貼ってあげなさい」
「言うたもん…」
「…ありがとうございます」
「ほら!」
「ユウジ先輩しばきますよ」
「お前かい!でも同じの言うた!」
「ありがとうございます」
「ちょ、ほんま一発殴らせてください」
「光、立ったら千歳にお姫様抱っこされるで!」
「チッ…」
「ありがとうございます」
「……」

 ユウジのからかいと私たちの笑いに光はまた眉間にシワを寄せて、はぁー、と頭を下ろしてまた大きくため息をついた。

「ほんま、アンタらは」

 そう言って少し笑ったのは、湿布を貼ってあげてる私にしか見えない。目が合うと「…今のナシ」と言うから笑ってしまった。


20120301

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