跡部さんの結婚式で宍戸さんたちが結婚を決め、その際に向日さんに「次に公開プロポーズするのはお前だな」みたいなことを言われた。それだけはごめんだし、俺だってナマエとはもう長いから結婚も考えていた。お互い思ってはいたけどただタイミングがなかっただけで、宍戸さんの結婚式である今日の朝、ナマエが「いいなぁ、楽しみだね」と何の意図もなく呟いたから「俺たちもそろそろするか」とプロポーズともいえないプロポーズをした。ナマエは面白いくらい焦って、何度も「本当に?」と聞いた後に朝から泣いた。本当は待っていたのだろうか、と思うと俺たちはタイミングがないだけだと自分は逃げていたんじゃないかと思って恥ずかしくなった。宍戸さんみたいに男らしく堂々と公言できるような男であれば良かったのだろうか。

 控え室に招待されてなぜか写真を撮った後、まだ時間があるのを見て「あいつ呼んでもいいですか?」と二人に聞くと「もちろん!」と返ってきた。俺とナマエは中学のときからだからテニス部とは面識があって、ナマエも結婚式に招待してもらっていたし(跡部さんのときも呼ばれていたがナマエは仕事で参加できなかった)、宍戸さんと先輩には二人そろっていろいろと世話をしてもらった。ナマエが控え室に顔を出すと、先輩が「久しぶりー!」と高い声を出し、学生時代と変わらぬテンションで手を合わせたりした。
 ナマエが一通り先輩たちに挨拶したのを見て、俺は宍戸さんと先輩に言う。

「俺たち結婚することにしました」
「え!?」
「は!?」
「まじまじ!?」

 二人に言ったつもりが、全員に聞こえたらしい。ナマエは照れ臭そうにしながら俺の横にやってきて、笑った。

「今言うんだね」
「というわけで跡部さんのようなことはしないでください」
「お前、それが一番だったろ」

 宍戸さんがそう言って笑うから先輩も思い出したように笑った。後ろで跡部さんがアーン?と言っているのを聞きながら、腕を組む。

「前から考えてはいましたよ。タイミングが今朝だっただけで」
「しかも今朝かよ!」

 からかうように向日さんが言うから、しまった、余計なこと言わなければ良かったと思った。先輩は一通り笑うと、ナマエの手をキュッと握って感慨深そうに呟く。

「はー…そっかぁ、うん、おめでとう、ナマエちゃん」
「ありがとうございます、先輩…」
「嬉しいなぁ、こんな日にこんなおめでたいこと聞けるなんて」
「だな。おめでとな、若」
「…どうも」
「そっかぁ…嬉しいよ、ほんとに…」
「おいおい」

 先輩の語尾が段々震えていって、宍戸さんが呆れたように笑った。何泣いてんだと言いながら宍戸さんは先輩の顔を覗き込む。「だって…」と本格的に泣き始めた先輩に、芥川さんたちが笑って言った。

「おいおい花嫁ー」
「化粧とれてまうで、アホ」
「だってー!」
「だってじゃねぇよ」

 そう言いながら笑う跡部さんと目が合い、「おめでとう若」と言われた。それに加えて向日さんたちも「おめでとー!」「ヒヨっ子のくせに!」「おめでとさん」と祝ってくれて、さっき泣き止んだと思った鳳がまた目に涙を溜めながら「おめでとう日吉、ナマエちゃん」と震えた声で言ってきた。馬鹿だな、と呟いたら隣のナマエが俯いたから見れば、ナマエも泣いていて呆れる。

「お前もかよ」
「うー…ごめ、だって、嬉しくて」
「泣き虫ばっかりだな」

 宍戸さんが先輩を撫でながらナマエと鳳を見て可笑しそうに笑った。「こいつらは昔からだろ」と跡部さんが言い、跡部さんたちの卒業式を思い出す。中等部も高等部もこうやって泣いた三人に、「そうだったそうだった」と芥川さんが笑った。
 俺たちの結婚式でもこの三人は泣くかもしれないとふと思う。俺にとっての下剋上の場所でしかなかったテニス部で、何で中等部高等部を卒業してからもつるんでいるのかと問われれば確かに矛盾しているかもしれないが、ふと浮かんだ俺たちの結婚式には誰一人欠けることなく集まった彼らがいた。例えば俺の今までの人生に彼らがいなかったとしたら、…つまらなかっただろうと思うことは否定しない。それって幸せなことだね、といつかナマエが言っていた。その「彼ら」に自分が含まれてることに気づかないナマエは今現在化粧が崩れるのも気にせず泣いている。それを見て笑う周りを見て、思わず笑みが零れることを幸せと呼ぶのならそれはそれでもいいかもしれない。きっと今日だけだろうが。
 きっとそう言ったらナマエは「ひねくれ者!」とか「ツンデレ!」とか言って笑うのだろう。そんな奴のプロポーズに頷く奴なんてお前ぐらいだろうな。先輩たちと談笑しながら俺の手を掴むナマエを軽く見る。そしてどこまでも幸せそうな宍戸さんたちを見て、不意に「下剋上だ」と呟きたくなったのだった。


20110923

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