宍戸とナマエの両親に「見てあげて」と招かれて控え室に行くと、数ヶ月前に俺と嫁が着たような正装をした宍戸とナマエがいた。いつもの薄い化粧ではないナマエはまるで別人で「おぉー!」と岳人たちが歓声をあげ、ナマエは別人のように照れて宍戸の後ろに隠れた。宍戸とナマエの両親はそんな俺たちに笑いながら控え室を出て行ったから軽く頭を下げ、ジローが「跡部跡部!」と呼ぶからナマエを囲むジローたちに近づく。

「うわ、まじ別人!」
「うっさい!見ないで!」
「恥ずかしがらんでもええやん、綺麗やでナマエ。なぁ跡部」
「なかなか似合ってんじゃねーか」
「うわああああ…」

 照れるナマエは段々と宍戸から離れ、あっという間に俺たちに囲まれた。岳人やジローが物珍しそうに携帯で写真を撮るから「やめてよ!」と言うナマエの頬はチークではない自然な赤で、やっと普段のナマエを見た気がした。

「ナマエさん綺麗です!」
「あ、ありがとう長太郎…」
「馬子にも衣装ですね」
「わ、やっぱり言った!」

 ナマエが「若は絶対そう言うって亮と話してたんだよ」と言うと、若は恥ずかしそうに顔を背けた。「綺麗ってことだろ。なぁ、若」と言えば少し睨まれたからまだまだガキだなと笑えた。

「馬子にも衣装だな、まじで」
「ほんまに」
「それ言いすぎじゃないですかね」
「いやいや綺麗やって」
「…」
「照れてんじゃねーよ」

 ストレートに言えば照れるナマエにそう言うと、みんな笑った。ふと宍戸を見れば宍戸も笑っていて、目が合うと眉間に皺を寄せて誤魔化そうとしやがったから近づいて言う。

「なかなかいい嫁じゃねぇか」
「あぁ?」
「うちほどじゃねぇが」
「そう言うと思ったぜ」

 激ダサ、と宍戸は笑った。その笑いが今までつるんだ中であまり見たことのないもので、俺もあの日こんな顔をしていたのだろうかとふと思う。そしてナマエが俺に向かって「跡部が生きてて良かった」と言ってきたことも思い出した。なぜあのタイミングで言ってきたのかは分からないが、なぜか泣きそうになったナマエが真剣に心から言ってきたということだけは分かった。それを言うなら俺も、ナマエが、そしてあいつらがここまで生きてきたことを良かったと言うべきなんだろう。人生において、いい経験ができたと思う。言うなればかけがえのないものだ。
 騒ぐヤツらを見ていると、宍戸がふと呟く。こうやって騒いでいるあいつらを宍戸と少し遠くから見ていることが久しぶりなことに気づき、あの頃がさっと脳裏を横切っていった。

「これでだいぶ緊張とれんだろうな」
「お前も緊張してんだろ、アーン?」
「っせぇよ」

 否定をしないのは、自分の緊張がどうであろうがナマエが緊張をしているならそれをどうにかしたいという宍戸の性格の表れだろう。相変わらずなやつだ、とフッと笑えば一際でかい声でジローが「長太郎が泣いてる!」と叫んで思わず目を向けた。「ナマエさんが綺麗すぎて…!」と泣く長太郎に岳人や忍足は笑い、ナマエは焦って長太郎の背中に手を添えて「長太郎くんっ」と声をかけていた。そういえばあんな感じで俺の時も泣いてたな、と思い出す。長太郎は宍戸はもちろんだがナマエにも世話になった、尊敬している、といつも言っているぐらいだから始まってもいないのに感極まったのだろう。
 隣で宍戸が「あーあ」と呆れたように笑った。その声に俺も笑い、あまり変わらないこの空気が改めて居心地良く思えた。「なぁ跡部」と宍戸が言うから宍戸に目を向ければ、宍戸の横顔は見ているこっちが幸せに気づくくらい幸福感に満ち溢れていて、一瞬息が止まる。そんな俺に気づかない宍戸は、小さく呟いた。

「お前もあん時こんな気持ちだったんだろうな」

 あん時、というのは俺の結婚式のことだろう。答えを聞く気もなかったのか、宍戸は「おい長太郎、激ダサだぜ」と後輩をからかいながらナマエたちに近づいて行った。
 その背中を見ながら、多分、きっと俺もあの時あんな顔をしていたんだろうなと思うと可笑しくなった。
 「跡部!」とみんなで写真を撮りたいらしいジローが俺を呼ぶ。「あぁ」と近づけばナマエと目が合い、ナマエの隣に立たされるとまた目が合ってナマエは照れくさそうに笑った。小さくナマエが呟く。

「生きてて良かった」

 笑えば、前にいた岳人が「?」という顔をした。まぁ俺たちにしか分からねえ会話だろうな、とまた笑ってカメラを向く。
 既に幸せで溢れた部屋で、幸せになれよ、という台詞はあまりにも似つかわしくないと思ってやめた。まぁ喧嘩したときはせいぜい愚痴でも聞いてやるよ。結婚おめでとう。


20110922

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