テニス部マネージャーのナマエは中学になって大阪に引っ越してきた関東人である。(偏見かもしれないが)関東人にしてはノリもいいし明るく、学校にもテニス部にもすぐ馴染んだし性格にも問題がないと思う。思うが。

「あ、ユウジくん」
「ユウジくん言うな!!」

 どうにも合わないところがあったりする。

「お前何回言うたら分かんねん、ユウジくんとか気持ち悪い呼び方すな!」
「ごめんごめん」

 ナマエはへらへら笑いながらそう謝った。通っていた東京の学校じゃとても親しくならない限り名前を呼び捨てしたりしなかったらしく、その癖がまだ残っているのだとナマエは言ったが入学当初から言い続けているのだからいい加減直せアホボケと言いたい。いや言っとるけど。
 しかしこれでもましになった方だ。入学したての時なんか「一氏くん」と呼んでいた。俺はユウジと呼ばれ慣れていたから「ユウジでええで」と言ったのにナマエは何を勘違いしたのか俺を「ユウジくん」と呼ぶようになった。「一氏くん」のがまだマシや。

「で、何の用や」
「白石くんからの伝言。今日の部活遅れるからメニューはいつも通りでやってくれ、って」
「さよか」
「で、ユウジくんも小春ちゃんも白石くんがいないからってあんまりふざけないようにって」
「…」
「さすがに全国大会前だからかなぁ。でも緊張感は大事だけどやっぱりいつものみんなじゃないと寂しいよね」
「……」
「あ、白石くんの文句言ってるわけじゃないんだよ?大事だと思うし………聞いてる?ユウジくん」
「…せやから」


「今日も怒鳴っとったな、ユウジ」

 休み時間の叫びを聞いていたのか、遅れて部活にやってきた白石が笑いながら俺にそう言った。俺の腕の中にいる小春が「あら」と困ったように言うから思わず「げ」と小さく声に出してしまった。謙也が「あーあ」と笑う。死なすど。

「またナマエちゃんに怒鳴ったのぉ?あかんやないの、女の子に怒鳴ったりしたら」
「せやけどあの女がいつまでたってもユウジくんユウジくんて」
「いつも思っててんけど、何でそないにこだわるん?」
「あぁ?」
「他の女子にユウジくんて呼ばれても怒らへんやん」
「分かったで、ユウジまさか…」
「アホか!」

 謙也がボケているのかボケていないのか真面目な顔でそう言うから大声で怒鳴る。白石が暢気に笑った。

「俺が好きなんは小春だけや!」
「うふ」
「まぁそれはええけど、ほんまナマエだけには過剰に反応するやん?前から何でやろなぁ思うててん」
「…」

 白石の言葉は事実だった。それの原因も実は分かっている。だけどそれを言うのはなぜか躊躇われた。

「言いたない」
「えー知りたいわぁ、ユウくん」
「ナマエの標準語と合わさると鳥肌たつねん」
「あっさりか」
「つまりユウくんは標準語プラスユウジくん呼びに過剰反応しとるってこと?」
「なんか嫌やん」
「そうなん?」
「ほな謙也、ナマエに謙也くん呼ばれて気持ち悪い思わんのか?」
「え、あ、う、あれやな、あの…」
「白石もやで」
「……ちょっと照れてまうかもな」
「それや!カレカノみたいや!東京のカレカノや!」
「東京のカレカノて」
「やっぱりユウくんナマエちゃんのこと意識…」
「してへん!俺は小春一筋や!」
「ユウくん…!」

 小春を抱きしめた。あーやっぱり小春や、小春が一番や!ナマエは理解力のないただのアホや!嫌な奴ではないけどな!
 抱きしめあう俺たちをよそに、白石や謙也が言った。

「ま、正直あの標準語にはたまにドキッとしてまうっちゅー話や」
「せやな。女の子っちゅー感じやし、よう笑ってくれるし」

 ナマエは関東人だからか、どんな笑いでもよく笑った。同じネタでも関西人だと「ひねりが足りひんな」なんていう女子もおるし、それに比べると笑かす側としてはやりやすいしやっぱり嬉しい。

「白石くーん」
「おぉ、ナマエ」
「噂をすればっちゅー話や」
「ハゲやな」
「それを言うならカゲやでユウくん」

 やってきたナマエは俺たちの言葉に「何それ」と笑った。出た、標準語。俺は思わず眉間にシワが寄る。

「もう来てたんだね。来週の試合のことなんだけど、今いい?」
「ええよ」
「えっとね、バスがね」
「…」

 標準語や標準語。標準語の話をしていたからか、ナマエと白石の話を謙也も含めて俺らは真剣に聞いていた。それを変に思ったのか、不思議そうな顔でナマエがこっちを見る。

「…どうしたの?」
「えっ」
「ナマエちゃん可愛えなぁって見とっただけやで」
「何言うてんねん小春の方が可愛えわ!」
「もうユウくんったら!」
「ははは、もー何なのー」
「ナマエはただのアホやからな」
「え、ユウジくんひどい!」
「そんなん言うたらアカンよユウジくん」
「そうやでユウジくん」

 ふざけた白石や謙也を睨み、ナマエも睨む。ナマエはへらへら笑って「ははは」と俺の腕を叩くから、あ?何やねんこいつと眉間にシワを寄せてナマエを見れば、ナマエはまだへらへら笑ってて、へらへら言った。

「いつもわざとなんだ、ごめんね」
「!」

 こいつ!

「今の標準語ちょっとキュンとしたわ」
「俺もや」
「白石くんも忍足くんも標準語慣れてないもんね」
「みんなそうよぅ」
「そっか」
「この間も金ちゃんがナマエにきついこと言うたらアカン気がするて言うとったで」
「えぇ、遠慮されてるの?なんか嫌だなぁ」
「ちゃうちゃう、遠慮っちゅーより女の子やって気ぃつかってんねん」
「これで他の女子に気ぃつかえるようになればええんやけどな」
「金太郎さん、女の子に対する態度が分かってないのよねぇ」
「せやせや」
「あ、ユウくんもよ」
「ははは、言えとるな」
「せやな」

 こいつら!!

「俺は小春がおればええねん!!」


20110906

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