あつがなつい。訂正、なつがあつい。
 真田に言えば「夏なのだから当たり前だろう!くだらんことをほざくな、さっさと仕事をせんか!」と怒声が飛んできそうだが、それにしても今年の夏は暑い。真田並みに暑苦しい。
 ジリジリ焼きつける太陽は遠慮というものを知らないらしい。コートでみんなが頑張っているというのにそんなのお構いなしで照り続ける。ベンチの隣に座っているブン太が低い声でつぶやいた。

「あっちぃ…」
「ね。ちゃんと水分補給しなよ?」
「おー」
「ジャッカルは?」
「顔洗いに行った」
「ふぅん」

 と話していたところに、コートから「ナマエ!」と真田の声がして目を向ければ、誰かが転んだらしく真田と柳がそいつの周りを囲んでいた。隣でブン太が「赤也か」と呟く。

「あらら」

 そう呟いて救急箱を持ち、ついでにドリンクも持って立ち上がると視界が消えた。足が動かなくなったようにその場にしゃがみこむ。頭が揺れてるのか脳が揺れてるのか分からないけど揺れた。ぐらあん、ぐらあん。何かが聞こえる。
 あ、これは、やばい、横になりたい、ならなきゃ、と何かを直感して頭を下げたら「ナマエ!」とブン太の声と手が私を支えた。さっきから遠くで聞こえてたのはブン太の呼ぶ声か。ブン太のしっかりした胸に頭を預けると、幾分楽になった。けれど視界は戻らない。揺れる、揺れる。

「ナマエ!」
「ちょ、ナマエさん!」

 幸村と真田と柳と赤也だ。いやそんな切羽詰まった声出さなくても脳内はしっかりしてるよ、動けないだけで。あーなんか恥ずかしい。ってか男だらけで暑苦しい。暑い、暑い、暑い。

 起きるとそこは保健室でした。何で。あ、熱中症でした。
 信じられないほどすっきりした頭を持ち上げて起き上がると、カーテンの向こう側から話し声が聞こえた。耳をすましたら赤也とブン太がふざけている声がする。「んじゃ今日ゲーセン行きましょーよ!」「いいぜ、俺今日神様降りてきてっから」「この間もそう言ってたじゃないっすか!」おい保健室残るくらいだったら私の心配しとけや。そう思いながらベッドから降りてスリッパを探していたらカーテンが開けられた。ブン太が「おー起きたか」と言う脇で赤也が「大丈夫っすか?」と聞いてくる。

「うん、もう平気」
「熱中症だとよ」
「水分をしっかり補給せんからだって副部長怒ってましたよ〜カンカン」
「うげぇ」
「人には口うるさく言うくせに」
「ちゃんととってたつもりだったんだけどね」

 探してもスリッパがなかったので諦めると、ブン太が携帯で誰かに「ナマエ起きたぜ」と電話をしていた。幸村か真田だろう。赤也と目が合うと、赤也は拗ねたように言った。

「まじビビりましたよ、俺んとこくると思ったら倒れるんスもん」
「ごめんごめん、赤也怪我は大丈夫?」
「さっきここで柳さんにやってもらったっス」
「なら良かった」
「やっぱ誰かが倒れるのは心臓に悪いっスね」

 冗談ぽく赤也がそう言った。そうだ、幸村が私たちの前で倒れたのはまだ記憶に新しい。赤也がこんな風に何を訴えるわけでもなく呟く感じが申し訳なかった。一瞬だけ、倒れた時みたいに頭が熱くなって苦しくなる。そうだよね、心臓に悪いよね、部活の先輩がまた倒れたってびっくりさせちゃったね。

「ごめん」
「ナマエ、続けれそうか?」
「あ、うん、大丈夫」
「いけるって。…おう、わーってるよ」
「あ、そうだ、ナマエさん、水」
「ありがと」

 赤也が思い出したように水を差し出してきたからそれを受け取って飲むと、ブン太が通話を終えて携帯をポケットに入れた。真田副部長っすか?と赤也が聞く。

「ん。早く戻ってこいってさ」
「んじゃ行きますか。ってかなんかスリッパない?」
「あーそっか、お前運ばれてきたからな」
「そういえば誰が運んでくれたの?」
「俺」
「えっ」
「俺に寄りかかってきてたからしょうがねぇだろぃ。あーまじ重かった」
「なんかすごい不覚…ブン太に運ばれるとか…こんなチビに…」
「お前よりはでけぇから!」

 コートに戻れば、柳生や仁王も大丈夫かと心配してくれた。幸村と柳は空気を読んで優しくしてくれたけど真田は空気を読めずに水分補給を云々説教された。もう、本当に、暑苦しいなぁ。


20110818

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