跡部が部活にやって来ない。連絡をしようと思ってジャージのポケットに手を突っ込んだけれど携帯はなかった。あれ、もしかして部室に忘れた?そばにいた忍足にちょっと部室に携帯取ってくる、と伝えれば忍足はなぜか笑った。

「サボったらあかんでー」

 からかう忍足に笑いながら怒り、小走りで部室に向かう。ミーティングルームに入って更衣室のドアノブに手をかけるとドアに貼られたルーズリーフが目に入った。汚い字で大きく「跡部様睡眠中!」と書かれ、脇に違う筆跡で「俺様の睡眠に酔いな!」と訳の分からないことが書かれている。岳人とジローの字だった。
 そういうことか、忍足が笑った理由が分かった、と私は笑ってドアノブから手を放し、ポケットに入れていたペンで端っこに跡部の似顔絵を書いて「起こすんじゃねーよ、アーン?」と書いておいた。我ながらいい出来だ、この跡部の似顔絵はこの間も岳人に褒められたものである。

 部活が終了して、跡部部長は?なんていう声の中を跡部の代わりに監督が話し出し、最後にこう言った。

「それと、今日は部室の近くを通る際は静かにするように」

 あの貼り紙を見たようだ、貼り紙を知っているレギュラー陣が笑った。跡部が頑張り屋さんなのを監督もよく知っている。
 部活の終了が告げられて帰り出す部員たちとは違ってレギュラー陣は当たり前のように居残り練習を始めた。みんな優しいねぇ、とからかって言えば岳人が笑って返してくる。

「代わりになんかたからねーとな」

 一時間くらい練習をし、そろそろ帰るかーと更衣室に向かえば貼り紙がなくなっていた。起きたのか?みたいな視線をみんなで交わして、そっと中を覗けば跡部は何かの書類を書いていた。私たちに気づくと「遅かったじゃねーか」と笑う。

「跡部跡部!俺今日岳人に勝ったんだぜ!」

 嬉しそうなジローの声に岳人が「まぐれだまぐれ!」なんて大声で返して、相変わらず騒がしい部室に戻った。そばにいた長太郎が私と若に「あれ」とテーブルの上を指差して笑うから若と一緒にテーブルの上を見ると、私たちの書いた貼り紙がきちんと置かれていた。捨てないんだ、と三人で笑った。

「なんか食いに行くか」

 帰り際、みんなが着替え終わったのを見計らってか跡部がそう言うから何を食べるか言い合いしながら部室を出た。ちらりとテーブルの上を見れば書類も貼り紙もなくて、ゴミ箱の中にもそれらしきものはない。さて、あの貼り紙はどこにいったのでしょうか。


20110801

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