謙也に「ナマエ、ちょっと来てくれ」と呼ばれたので私は友達に断って席を立った。盛り上がっとたのに、と少しイラついて「何やねん」と言えば「いや、それがやな」と謙也が隣の二組に向かうからついていく。すると思わず肩がビクッとなるくらいの聞き慣れた大声が聞こえた。

「何でや白石!」
「アカンもんはアカン」
「いーやーやー!」
「金ちゃん、だだこねんといてぇや、先輩たち見とるで」
「嫌や嫌や嫌やー!」
「こういうわけやねん」
「なるほど」

 つまり金ちゃんを宥めるのを手伝え、と。
 ため息を軽くついて白石と金ちゃんの近くに行けば、面白がっていたギャラリーが道を開けてくれた。それに気づいた白石が「おぉ、ナマエ」とホッとしたような顔をする。今日のは骨が折れそうや、とふと思った。

「どないしたん金ちゃん」
「ナマエ!聞いてや!今日の部活ないんやて!」
「え、昨日も休みやったのに?」
「今日はコートのラインの整備やて。オサムちゃん言うの忘れとったらしくて」
「テニスやりたいー!」
「で、これや」
「金ちゃんテニス大好きやなぁ…」
「テスト期間もようやっと終わったしそれもあんねんやろ」
「やりたいやりたいやりたいー!」
「金ちゃん…」

 だだをこねる金ちゃんをよそに、目で白石に毒手は?と聞くがさっきやったら効かんかった、とでも言うように肩をすくめた。これはよっぽどらしい。テニス部としてはいい傾向の我が儘だけれどこうもゴンタクレなのはいただけない。ため息をついて、金ちゃんに叱るように言う。

「金ちゃんしゃあないやん、ラインがなかったらテニスできへんやろ?」
「そんなん言うてもワイはテニスしたいねん!」
「あ、ほなストリートテニスは?あるやん、向こうに」
「あそこは他の奴らがおって交代で使わなあかんやんか!」
「ほな壁打ち」
「ゲームがしたいねんワイは!」
「せや、今日はたこ焼き食べに行こか?ナマエがおごったるで!」
「テニスがしたいんやー!」
「あぁもう…」

 ああ言えばこう言う、金ちゃんはどうしてもテニスがしたいようだった。いつもの多少のわがままならなんとか宥められるが、今日はそうもいかないらしい。
 どないしよ、と白石を見れば白石はため息をついて謙也に呟いた。

「あかんなコレは。謙也、次は千歳頼むわ」
「千歳今日おるんか?」
「知らんけど千歳に頼むしかないわ」
「あっ、待ち謙也、タイミングよく千歳から電話や」
「なんやと」
「もしもし?千歳?」
『ナマエ、今日は部活あるんやろ?』
「今日休みやて。アンタ今どこにおるん?」
『裏山ばい。今度の金曜日ロードショーやけん来とうなって』
「トトロのために授業さぼるな!あんな、今金ちゃんがテニスやりたい言うてだだこねてんねん、あんたどうにかしてくれへん?」
『えー』
「えーちゃうわ!」
「どいつもこいつも…!」
「白石…」
『んじゃ金ちゃんも裏山来んね?』
「あ、せや!金ちゃん金曜日のトトロ見るん?」
「…見る、トトロごっつおもろいもん」
「今千歳が裏山でトトロ探しとるんやて、金ちゃんも探し行かへん?」
「! 裏山にトトロおるん!?」
「おん。なぁ白石」
「せやな、校長先生この間朝礼で言うてはったわ」
「猫バスも見た言うてはったな」
「医者の息子も言うとるんやから間違いないで、今日の放課後はトトロや金ちゃん!」
「ワイ、トトロ食ってみたい!」
「食うんかい!」
「もしもし千歳?」
『どげんなったと?』
「トトロ探すことになったわ、放課後金ちゃんの世話よろしゅう」
『あいよ』
「金ちゃんトトロ食いたいねんて」
『トトロ食うと…!?そ、そがんことしたらいかんばい!』
「ははは」


20110730

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