「きゃあ!」

 強く吹いた風は私のスカートを軽やかに翻して、私は思わず叫びながらスカートを押さえた。急な突風は下からからかうように煽るから絶対に今モロにパンツ見えた、と顔が熱くなる。誰もいないよね?とあたりを見渡すと、後ろの方で男の人がアイスを頬張っていて私の方をジッと見ていた。
 ああああああなんてこった!
 もう一生会うこともないであろう男性に背を向けて私は駆けた。恥ずかしい、すごく恥ずかしい!向こうは私のことを知らないし、多分もう会わないだろうけど恥ずかしい!
 息が上がってきたところで走るのをやめた。熱い頬を手で扇いで冷ましながら「ああもう最悪最悪最悪」と思いつつ街を歩いていると、新しいポスターが目に入る。地元のサッカーチーム、ETUのポスターだ。近々ホームで試合があるらしい。

「あ…っ」

 ポスターのど真ん中に印刷された男に私は思わず呟く。達海猛。さっきのパンツ見られた人だ!
 何だか恥ずかしくてポスターが見えないところまで私はまた走った。

 そのポスターの試合は明日行われる。街は何だかそわそわしているような感じで、ある意味私もそわそわしていた。あのポスターをもう外してほしい、恥ずかしくて適わない。

「ナマエ、お店出てー」

 下から母親に呼ばれた。パン屋を営んでいるため、しばしば手伝いに駆り出される。渋々店に出ると、ばーんと例のポスターが貼ってあってため息をついた。気分が下がる、ここでもか。
 店に客はいなかった。母親は回覧板でも回しているらしく、立ち話をするだろうからしばらくは帰ってこないだろう。客もいないし、とポスターを見ないようにカウンターにうなだれるとちょうど店のドアがカランカランと音を立てたから顔を上げて「いらっしゃいませ」と呟いた。けれど営業スマイルは出てこない、達海猛がそこにいた。

「あれ」
「!」

 私のことを覚えてるらしい。あぁ、穴があったら入りたい、むしろ穴を掘りたい!あんな一瞬だったのに何故寄りによって覚えているんだ!もし「あのパン屋の娘のパンツ、顔に似合わず白だったぜ」とか言いふらされたらどうしよう、しょうがないじゃないかあのパンツは可愛くてお気に入りなんだから、別に見せるつもりなんかじゃなかったし下着くらい何を履いたって!
 気まずいにもほどがある。なのに達海猛はきょとんという顔をしていて、完全に思い出したのか私を指差して口を開いた。

「白の」
「ミョウジです!」
「…ミョウジ?」
「…ミョウジナマエです、先日はお見苦しいものを見せて申し訳ありませんでした」

 そう言うと達海猛は一瞬驚いて、すぐ笑った。何とも読めない笑いだ、この人よく分からない。

「全然。むしろ俺忘れられなかったよ」
「そりゃあんなもの見たら…」
「違う違う、そういう意味じゃなくて」
「は?」

 カウンターまで歩いてきた達海猛はまた笑った。ポスターで見るよりかっこいいと思ったけれど、今はそんなことを考える余裕はない。ちらりと目を逸らすとポスターが目に入って何だか「四面楚歌」という言葉を思い出した。
 達海猛は真っ直ぐ私を見て言った。

「可愛かったって意味。あの白のパンツにやられたよ、俺は」

 頭がクラクラするくらい顔が熱い。言葉を発するのも恥ずかしくて、ニヤリと笑う達海猛は「その顔。だから忘れられなかったんだよ」とあの時と同じくらい真っ赤であろう私の顔を見て言った。
 私だって忘れられなかった、ポスターとか羞恥心とか。でも今この瞬間、この状況、あの台詞、きっと私は永遠に忘れられないだろう。

「一目惚れしたの初めて。あぁ、パンツじゃないよ?ナマエに一目惚れしたの」

 今日のパンツも白、私のラッキーカラーということでどうでしょう。


20110421
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