天井がぼやけている。ベッドに沈み込んだ体は熱く、体中がぎしぎし痛んで「寝ていたかった」とすぐさま後悔した。喉が渇いたことに気づいて体を動かしたら、「お、起きたか」という声がして誰もいないことを前提に行動していた私はそれはもう驚いて体が面白いくらいビクッと震えた。蔵が少し申し訳無さそうに笑って呟く。

「驚かしてもうたな、すまん」
「くら…何でここに…ってかいま何時?部活は?」
「今は5時くらい、部活は今日休みて事前に報告しとったやろ?」
「あー…そうか、良かったわー…気がかりやってん…」
「風邪引いたときくらい部活のこと忘れてもええのに」
「ほな蔵は風邪引いて休んだとき、部活のこと一ミリも考えへんの?」
「いや、ごっつ心配」
「マネージャーも部長と同じくらい部のことが心配なんやで」
「せやな。まぁ俺は風邪引かへんけど」

 せやった、こいつ健康オタクやった。笑ったら上手く口角が上がらなくて嫌になった。笑いたいときくらい笑いたい、なんて融通の利かない体だと気分が沈んでまた体が重くなる。
 それに気づいたのか単なる優しさか、蔵はテーブルの上にあるペットボトルを取って蓋を開け、私に差し出した。

「水分とり。んで今おばちゃん買い物行っとるけど、お粥作ってはるからお腹空いたなら温めるで」
「ん、ご飯はまだええわ。ってかいつからおったん」
「一時間くらいやろか」
「か、帰っても良かったんやで、暇やったやろ」
「せやけどナマエの傍におりたいし」
「…何やねん」
「せやからお粥食いたい言われたらどないしよかと思っとった。お粥温める間、ナマエから離れなあかんやん」
「いつからそんな甘えん坊になったん、蔵ちゃんは」
「ちょっとでもナマエが寂しがるのが嫌やねん。風邪んときって考え暗くなるしな」

 優しく笑う蔵が優しすぎて、今水飲んだっけ?と思考が混乱した。私がいつ寂しがったかとかそんなんよりも、そう考えてくれる蔵がとても好きだと思う。
 ペットボトルを返すと蔵はそれに蓋をして、私に近づいた。何事だと体を引いたけど、蔵の長い手が私の汗ばんだ額すれすれに前髪を上げたからおでこごっつんこさせるつもりだと気づいて慌てて蔵を止める。

「いやっ、蔵っ、私昨日風呂入ってへんねん!シャンプーの香りどころか汗臭いだけやし、熱もそんなにあらへんと思うし、ええから!」
「せやけどおばちゃんに熱計っとってって言われたし」
「ほな体温計で計るわ!」
「ええやん、ナマエにひっつきたいねん」
「あ、あほっ」

 蔵の力は強い。強いのに優しくて勝てなくて観念したら、お利口さん、と蔵が小さな声で言っておでことおでこを引っ付けた。目はぎゅうと瞑った上に緊張しすぎたから蔵の体温が暖かいのか冷たいのかも分からない。蔵が離れて、すごく近い距離で困ったように笑った。

「会えなかったからとかとちゃうくて、授業中とかな、ナマエが苦しい思いしとるんかなと思うとほんまに寂しくなってん」

 その台詞にこっちまで寂しいような切ないような、とにかく胸がきゅうっと締め付けられて寂しがり屋な蔵の唇を唇でふさいだ。離れたら蔵が小さく呟く。

「…好きやなぁ」

 熱い熱い熱い、また熱上がったらどないすんねん、苦しくて息を吐いたら優しい蔵が優しく私にキスをした。下で玄関の開く音がして、おかんが「ただいまー」と帰ってくる。目が合って「帰る?」と聞いたら「帰りたない」なんて言うもんだから思わず女子か、とつっこんだ。


20110416
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