まつげ、ついてる。と急に達海さんが私の頬を親指で撫でるように触ったから思わず上擦った声が出てしまった。そんな私に達海さんは不満そうな顔でからかうように「エロい声出すなよなー」と言うから恥ずかしくなる。

「そんなんじゃ…」
「ん。とれた」

 そんなんじゃないです、と言おうとしたけれど達海さんの声に遮られて言えなかった。達海さんは何故か私のまつげを自分の指に乗せてまじまじと観察している。何だか恥ずかしいものを見られてるみたいで、ゴミ箱を掴んで達海さんに差し出した。

「捨ててください」
「お前結構まつげ長いね」
「いいからっ、達海さんっ」
「何怒ってんの」

 のらりくらりと言いながら達海さんは素直にまつげをゴミ箱へ入れた。別に怒ってるわけじゃないけど、何となく見られたくなかったのだ。毛というものはどの部分のものでも恥ずかしい気がするのは私だけだろうか。あ、これ捨てたらダメなやつだ、と達海さんがゴミ箱を漁る姿を見ながら、さっき達海さんが触れた頬をなんとなしに撫でた。すると達海さんがそれを見て、ぽろりと呟く。

「…可愛い」
「えっ何が…」
「なんだろーな」

 なんだろーな、って。
 達海さんは頬を触る私の手に自分の手を重ねた。あったかい、ゴツゴツして少しかさついた手だ。年の差を感じて少し胸が熱くなる。達海さんの意図が分からず黙っていたら、達海さんは重ねた手を取って静かに私の頬にキスをした。さっき触られたところで、びりびりじんじんする。

「…なん、ですか?」
「なんだろーな」

 また、なんだろーな。笑う達海さんはいつの間にか取った手の指を絡ませていて、自分じゃない手に私は何故か呼吸を忘れるくらいドキドキした。苦しいくらい期待をしている。
 どうしたらいいか分からなくて、達海さんの目も見ずにぽつりぽつりと呟く。

「願い事しながらまつげとったら、叶うらしいですよ、願い事」
「ふぅん」
「ふぅんって…」
「ナマエ、まだまつげついてる」

 そう言った達海さんはさっきとは反対の頬にキスをした。そんなキスじゃ取れるはずないし、そんなしばしばまつげが抜けるはずがないということも私は知っている。達海さんはいろんなところに軽いキスをしながら、途中小さく呟いた。

「…ナマエがムラムラしますよーに」

 そんなこと、願わなくても、と達海さんを見たら目が合って、唇にキスをされた。降り注ぐキスにゆっくりゆっくり体が傾いていく。やられっぱなしも恥ずかしいし悔しいから小さく「達海さん、まつげ」と呟きながら頬にキスをすると、達海さんは一瞬きょとんとして、その後笑いながら「願い事は?」と聞いてきた。

「…達海さんが電気を消してくれますように」
「まつげ一本じゃ叶わない願い事だな、それは」
「えっ」
「あと十本くらい」

 ちゅーして、と達海さんがにやりと笑う。まつげ全部抜けちまえ。


20110427
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