体育の授業で足を挫いた。歩けないわけではないけれど地味に痛いし、これ以上悪化させるのも嫌だし歩きたくないけれど、さすがに帰宅するには自分の足で帰るしかない。跡部くんみたいなお金持ちならじいやでも呼んでお姫様抱っこでもしてもらうけど、残念ながら私は一般人より少し裕福な家の娘にしかすぎないので歩くしかないのだ。
 ジッとしていてもじんじん地味に痛む右足首を慎重に踏み出して、上るときも苦戦した階段を見下ろす。友達から「手伝おうか?」と言われたけれど痛みが引くわけじゃないし、部活もあるし時間もかかるだろうから先に帰っていいよと答えた。
 さて頑張りますか、と手すりを掴んで一段下りた。痛い。痛くないのかもしれないけど痛い気がする。

「大丈夫か、ミョウジ」
「しっ、しどくん」
「体育ん時の?」
「あ、うん、騒ぎにしちゃってごめんね」
「いや、大丈夫だけどよ。痛くねぇのか?」
「ちょっとだけ…。でも大丈夫だよ、車が迎えにきてるし…」
「階段は辛ぇだろ、俺も二年んとき捻挫した」
「そういえば、ずっと足引きずってたよね」
「無理すんなよ」
「うん、ありがとう」
「じゃあな」
「ばいばい」

 宍戸くんが軽やかに階段を下りていく。肩にかけたラケットバッグを見て、あーせっかく話せたんだから部活頑張れくらい言えば良かった、と少し落ち込んだ。でもわざわざ話しかけてくれたし、心配してくれたし、嬉しいなぁ。痛いけど挫いて良かったかも。
 また一段下りる。あー、嬉しいな、宍戸くんと話せちゃった、何日ぶりだろう。
 また一段。でも部活頑張れって言いたかったな、言ったら少しは心に残ってくれたかもしれない、気の利かない女だなんて思われたくないなぁ。
 もう一段。あ、痛い、やっぱり痛い、いつ治るのかなぁ、宍戸くんいつ頃治ったんだろう、あ、これも聞いたら話が弾んだかも、失敗しちゃった。
 さらに一段。にしても今日も宍戸くんかっこよかったなぁ、また絆創膏が増えてたけど、あ、これも話せば良かったなぁ、また失敗。
 またまた一段。あれ、誰か上ってくる、力強くて軽やかな足取りだ、え、嘘、宍戸くん?…だ。

「あ、ミョウジ!」
「え、何?」
「いや、やっぱ、手ぇ貸す」
「えっ!い、いいよ!」
「でも考えたら俺男だし、ミョウジ女だし一緒にしたらダメだよな、悪ぃ」
「えっ、えっ!?」
「ほら、手」
「えっ、待っ、え!?」

 急に汗が溢れ出て、思わず手を伸ばそうとしたけれど手汗かいてないかなとか思って動作が止まった。というか、これって、え?宍戸くんと手を繋ぐってこと?え?え?嘘、え、どうしよう?
 わたわたしていたら誰かが階段を上ってきて慌てて手を引っ込めた。「亮ー」と言いながらやってきたのは芥川くんで、私たちを見ると芥川くんは眠そうだった顔を一気に明るい顔に変えて笑顔で言った。

「わー亮が青春してる!岳人ー!」
「なっ、違ぇっ!ジロー!」

 芥川くんが体を翻してまた階段を下りようとしたから宍戸くんは慌てて芥川くんを追って階段を駆け下りていった。
 助かった、ような、残念、なような。
 いつの間にか止めていた息を吐いて、手の汗を渇かしながらまた階段を下りた。最後まで下りきって下駄箱に近づくと、宍戸くんが走ってやってきた。

「!」
「わっ」
「あーくそ、悪ぃ、ミョウジ」
「いやっ、こちらこそなんかごめんね、えっと、ありがとう、宍戸くん」
「あれだ、なんかあったら言えよ、手伝うし」
「あ、ありがとう…」
「いっつも見てて危なっかしいからな、お前」
「そうかなぁ…」
「あー…じゃ、俺部活行くわ」
「あ、がっ、頑張ってね!部活!」
「おう、ありがとな」

 言えた!と思わずホッとした。後から宍戸くんの最後の笑顔にどきゅんときて、痛みを忘れて右足を普通に使ってしまった。あ、もうちょっと話したかったな、明日、話せたらいいな。
 校門に向かってる途中、ランニングをしている宍戸くんを見つけた。遠いけどすぐ分かっちゃうのは恋だからだ、なんか恥ずかしい。すると宍戸くんがこっちに向かって手を上げてくれた。慌てて私も手を振ると、なんだか笑ってくれた気がするから今日はいい日だなぁと思った。
 …ん?「いっつも見てて危なっかしい」?
 …いっつも?


20110409
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