何でこうなったんだろう。
有里ちゃんや後藤さんを含むフロントのメンバーに、「猛とまた付き合うことになったけれど仕事と公私混同はしないから」という旨を伝えてから1日もしないで選手たちにも伝わってしまっていた。別に困ることもないけれど何だか、ホームだなぁと呟きたくなる、くすぐったいような気がした。
キャンプ二日目、練習も終盤になると黒田くんが杉江くんを連れてやってきた。いつも通り怖い顔をしていて、言いたいことは何となく予想がついた。
「ナマエさん、あんな奴のどこがいいんスか」
やっぱりね。別に黒田くんは私のことが恋愛感情で好きなわけではない。ただ猛が気に食わなくて言っているだけだろう。杉江くんは「すいませんナマエさん」と黒田くんを宥めるけれど、黒田くんはどうしても猛が気に食わないらしい。選手からしてみればああいう何を考えてるか分からない、しかもノリでやってそうな監督は好きになれないんだろう。ただでさえETUの裏切り者というレッテルを貼られているわけだし。
「どこがって言われてもなぁ…」
「あんな奴とヨリ戻して、幸せになれるとは思わないッスけどね」
「そう?結構幸せなんだけど」
「な…!」
「歳を取ると些細なことも幸せなんだよね〜。心配してくれてありがとう、黒田くん」
「え、いや…!」
「じゃあ、練習頑張って」
我ながら、黒田くんの扱いもだいぶ分かってきたと思う。別にすることもないけれどピッチに行けば、猛が寒そうにポケットに手を突っ込んでいた。
「あ、ナマエ」
「何?」
「プリンまん買ってきて」
「仕事中でしょうが」
「もっと暖かいとこでしてーよな」
「勘弁してください、うちは貧乏クラブなんだから」
ちぇーと拗ねたような顔をする猛に笑う。うん、それなりに幸せだと思う、とか考えていたら猛が私を見て「どうした?」と聞いてきたからまた笑った。
「さっきね、黒田くんに猛とヨリ戻して幸せになれるとは思えないって言われたよ」
「へー」
「興味なさそうね」
「んなことねーよ。どう?幸せ?」
意地が悪い、ニヤニヤした笑顔に少し呆れる。子供みたいでバカだなぁと思ってしまうけど、その顔が好きな自分もバカだよなぁと恋の力に改めて感服せざるを得ない。
「それなりに」
「なら良かった」
うん、幸せだ。
20110320