やってしまった。
 携帯のアラームが鳴り始めて目を覚ますと、隣にいる猛を見て一瞬にして今の状況と昨日の記憶を思い出して、頭が混乱した。とにかく猛を起こさないように、と携帯を探すが服が床に散乱していてどこにあるか分からない。床にしゃがんで服を持ち上げ、重たいと感じたズボンのポケットを弄る。手に触れた携帯のアラームを慌てて止めて、ベッドで眠る猛をバッと見た。起きてない、大丈夫だ。
 監督や選手が起きるであろう時間の一時間前にアラームを設置していたので猛を起こすわけにはいかない。しかしこれは幸運だ、誰かに猛の部屋から出るところを見られたら困る。とにかく部屋に戻ってシャワーを浴びて着替えて化粧をしよう、と床に散らばった服を集めた。赤い勝負下着を見て、本当に勝負下着になってしまったと我ながら可笑しくなる。服を着ながらのうのうと寝ている猛の寝顔を見て思わず顔が赤くなった。あぁ、なんてこと、好きだ、好きでしょうがない、気づかないふりをしていたのかもしれない、でもあんな風にされたら思い出さずにはいられなかった、やっぱり私は猛が好きだ。シャワーを浴びながら気づいた胸のあたりに点々とある赤い斑点に心臓が痛くなるほど愛しくなって、涙が出そうになった。

 一時間後、用意を終わらせて猛の部屋に行くと、猛はまだ寝ていた。ため息をついて猛の肩を揺らす。

「猛」
「…」
「時間、起きて」
「ん〜…」
「シャワー浴びないと」
「おー…」

 もぞもぞと猛は動き始め、私はその間に散らかった服や書類を片付ける。いつの間にか猛は起き上がっていて、寝ぼけ眼で私を見ていた。可愛いと思いつつもその視線の意味を問う。

「…何?」
「一回戻った?」
「うん、さすがに同じ服じゃ困るし」
「そ」
「…どうする?」
「何が?」
「何がって…」
「俺はナマエがいいよ」
「え…」
「お前は?」
「え、と、猛が、好き、だけど」
「じゃあいいじゃん。風呂入ってくる」
「あ…うん」

 猛はバスタオルを掴んで裸のままバスルームに向かった。あれ、なんだ、これ、こんなにあっさりでいいんだろうか。でも考えれば10年前もあっさり付き合うことになった気がする、これはこれで私たちらしいんだろう。
 猛がシャワーを浴びている間に部屋を片付けて、猛が着る服を出した。出てきた猛は「腹減った」と呟くだけだった。

「ねぇ、10年前私たちが付き合ったきっかけ覚えてる?」
「きっかけも何も、そういう雰囲気になったからだろ」
「うん」

 まさにそうなのだ、二人で話していて、そういう雰囲気になって、どちらともなくキスをして始まったのだ。お互い記念日なんか覚えてないし、本当にそんな軽いものだった。そんなものでここまで繋がるのだから、私たちは運命で結ばれていたりするのかもしれないと嬉しくなってしまう。気づけば年甲斐にもなく恋をしていて、有里ちゃんのことも言えないなぁと我ながら呆れた。


20110318
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