キャンプ一日目、散々だった。
いつも通り有里ちゃんと頭を抱え、ご飯を食べて軽く打ち合わせをして部屋に帰ろうとすると、廊下で偶然後藤さんに会う。
「お疲れ様です」
「お疲れ。…本当に疲れてるな?」
「当たり前じゃないですか…」
「ははは…」
「監督と何か話しました?」
「あぁ、もうメンバーは大方決まってるらしい」
「えっアレで!?」
「アレで。まぁ信じようじゃないか、俺たちは達海に賭けたんだ」
「信じてないわけではないですけど…不安です」
「まぁ…そうだな…」
はぁ、と二人して軽くため息をつくと後藤さんは、あぁそうだ、と切り出す。
「明日も早いから、良かったら達海を起こしてやってくれないか?有里ちゃん、血管切れるんじゃないかと思うくらい怒るからさ…」
「あ、はい。…というか、明日何時に起きるとか知ってるんですか?あの人」
「どうだろうな…」
「…釘刺しておきます、一応。どうせ起こさなきゃいけないと思いますが、寝ないってのも困るので」
「頼むよ」
後藤さんは苦笑いをして、おやすみと部屋に戻って行った。私も今日は疲れたし、早く寝てしまいたいものだ。さっさと猛の部屋に行こう。早歩きで向かい、猛の部屋を素早くノックするが返事がなくて声をかけた。
「猛ー入るよ?」
ドアを開けて入れば、猛はぐっすり寝ていた。サイドテーブルには缶ビールがあって、少し恨めしい。書類も何もかもバラバラだ、少しは整理整頓という言葉を覚えてほしい。布団も何もかけていないもんだから猛の足が踏んでいる布団を掛けると、猛は目を覚ました。
「んあ…」
「あ、ごめん。明日の起床時間知ってるかなと思って」
「あー…何時だっけ」
「起こしにくるよ、起こしてごめん」
「いや、風呂入んねーと」
そう言って猛は起き上がって、ベッドに座って伸びをした。
「明日の朝入ったら?」
「あーどうすっかなー…」
「眠そう」
「眠ぃ。お前は?」
「眠いよ、早く寝たい」
「じゃあここで寝たら」
「は?」
急に言われて、思わず猛の顔を睨みつけてしまった。猛の顔にアルコールが残っているのに気づいてため息をついた。
「酔ってるね、寝なさい」
「酔ってねーよ」
「わっ!」
引っ張られてベッドに倒れ込む。何、何、何が起きているのか。いつの間にか猛が私を押し倒したみたいな体勢になっていて、「いやいやいやいや」とツッコミをする。猛の目が分からない。
「おかしい、酔ってる、寝なさい」
「母ちゃんだな」
「母ちゃんじゃないっ」
「ん、ナマエちゃんね」
猛は言いながら私の頬にキスをする。外国に住んでいたからか、とても自然なものでいやらしさの欠片もない。体がだいぶ密着してるのに気づいて、私は慌てて猛の胸板を押した。びくともしないけど。
「猛、私もお風呂入ってない、し」
「明日でいいって言ったじゃん」
「そういう意味じゃない、ちょっと、ねぇ」
「勝負下着なんだろ」
「違っ、いやたしかにそうだけど、このための下着じゃ…」
ちゅ、ちゅ、と額やら頬やら鼻やらにキスが注がれる。猛の手がゆるゆると私の腰を触りだして思わず逃げたが、猛の手が止まることはない。抵抗しようと猛のシャツを掴むと猛は少しだけ動きを鈍らせたので声を出した。
「酔ってるよ、猛、寝なさい」
「酔ってねーよ」
「酔ってる」
「酔ってねぇ」
「酔ってるよ」
「そんなに酔ってることにしてーの?」
え、と呟くと腰のあたりをうろうろしていた猛の手が私の服の中に入ってきて、お腹を撫でてから胸に向かった。冷たい指先にびくっと体を揺らすと、猛は大丈夫という合図のつもりなのか私の頬にキスをした。猛の手は私の背中に回っていく。
「ちょっと、待っ、ほんとに」
するの?という言葉は猛の唇に奪われた。そこからは頭がかーっと頭が熱くなって、10年前より老いた体を触られる恥ずかしさや、相変わらず荒々しいような優しいような猛の手つきや、言葉ぐらいしか印象に残っていない。「くち、あけて」「足」「赤だな」「逃げんなよ」「すげぇ懐かしい匂い」「声」「我慢しなくてもいいって」「ん」「いいから」「ナマエ」「ナマエ」「ナマエ」
20110318