たまごサンドはなくなっていた。
 朝ご飯、ちゃんと食べたのかと判断して広報部に行けば、広報用に写真を撮ってきてと部長に頼まれたのでその足でグラウンドに向かう。明日からキャンプということで、そんなに激しい練習はしていなかったから撮りやすい。カメラを構えると、世良くんや椿くんが挨拶をしてくれた。いい子たちだなぁ、と思うあたり私はやはりおばさんなんだろうか。
 しばらくすると休憩になったらしく、選手たちがドリンクを飲んだりし始めたのでそろそろ戻ろうかなと思っていたら丹波くん、世良くん、石神くん、引っ張られて椿くんが走ってやってきた。何だろうと身構えていると世良くんが大きな声を出す。

「よし、いけ椿!」
「え!俺ですか!?」
「行け行け!」
「おう行け!」
「えぇっ」
「…何?」

 椿くんを押し出す三人に呆れ、思わずそう聞いたら石神くんが相変わらずマイペースに、興味があるんだかないんだか分からない顔で言った。

「ナマエと達海さんが付き合ってたってほんと?」
「…」

 なるほど、通りでなんかチラチラ見られてると思った。練習中にもこそこそ話しながらこっち見てたしなぁ。いつかはバレるとは思ってたけど、なかなか早かった。村越くんとかそういう配慮なさそうだ。いや、配慮しろとは言わないけれどさ。

「誰から聞いたの?」
「コシさんっす!」
「…」
「で、どうなんだよナマエ」
「丹波くんには教えない」
「何でだよ!」
「え、まじなんすか!?」
「達海監督に聞いたら?」
「監督に聞いたらナマエに聞けって」
「っつーことはまじなわけ?」
「まじだよ」

 そう言うと、世良くんと丹波くんは明らかにテンションが上がり、椿くんと石神くんは驚いたような顔をしていた。そこへどこからか松さんがやってきてニヤリと首をつっこむ。

「結婚秒読みだったんだぞ」
「え!」
「松さん…くだらない嘘を…」
「嘘じゃない、達海に今後どうする気か聞いたら結婚を考えてるって言ってたんだ」
「え…」
「それでスピーチは任せろって言われたけど、松ちゃんには任せられないよね」
「!」
「わっ監督!!」

 いつの間にか背後に猛が来ていて、びっくりしたのか松さんは怯えるように大きな声を出した(猛が背後にいることよりもその大きな声にびっくりした、よっぽど怖いのか)。昨日のこともあって、まともに顔を見れなかったので少し視線をずらす。

「次紅白戦やっからビブスつけろよー」
「あ、はい!」

 気まずいとでも思ったのか4人はすぐさま離れていく。松さんも気を使わせたつもりか、ニヤニヤしながら離れていった。呆れて笑いがでる。何故か猛は移動しなくて、何となく気まずくて話題を切り出した。

「結婚、考えてたんだね」
「まーね」
「意外だったよ」
「そう?」

 そう?とはどういう意味なんだろうか、と余計なことを考えてしまう。正直に言えば、あの頃私は当然のように猛と結婚するんだと思っていた。結婚を考えていたと言われ、嬉しい気持ちもあるけれど素直に喜べない自分が嫌だった。期待をしているのだろうか、猛は何を考えているのだろうか、そもそも私は猛を好きなのか、いや、好きだけど、恋愛感情なのか何なのか自分のことながら理解ができない。

「朝飯、食ったよ」
「あ、うん」
「相変わらずマヨネーズ多すぎじゃね?」
「好きなんだもん」
「だったな」
「マヨネーズといえばカレーにマヨネーズかけるかかけないかで喧嘩したよね」
「したっけ?」
「したよ。それ以来二人でカレー食べてない」
「ふーん…」
「うん」

 あ、会話終わりそう。でも考えたら会話を続ける必要もないのだ。お互い仕事中だし、猛が気まぐれなもんだから昔から会話がないこともしばしばあった。何を気を使っているんだか。

「なぁ」
「ん?」
「明日はトーストがいい」
「…うん」
「よろしくね〜」

 いつもの調子で猛はそう言うと、ぶらぶらとみんながいるところに戻った。明日はキャンプだから、早めに起こさなきゃ、とか考えながら「何だろう」と思った。この気持ちは何だろう、嬉しいのか切ないのか分からない、唇を噛んでしまいたい衝動やしゃがみこんでしまいたい弱い感覚は何だろう。恋だと言ってしまえばいっそ楽かもしれないけれど、恋ってこんなものだっただろうか。この感情は何だろう。


20110317
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