忙しい。
 達海猛が新監督になって、やはり話題性があるのか取材の数が以前に比べて増えた。どうせ「帰ってきたETUの星」などという見出しがつくに違いない、陳腐な気もするけれど事実といえば事実だ。

「後藤さん、新しい監督のことですけど、取材がですね…」
「えっ。…あぁ、もう知ってたのか?」
「あ、はい。さっき会いました」
「そっか。変わらないだろ?のっけからクラブに住むなんて言い出して、いろいろ困ってるよ」
「へっ?」

 苦いけれど懐かしそうに笑う後藤さんと対称的に、私は力の抜けた顔した。知らなかった?と後藤さんが驚くから頷いた。昔からいろいろと意味の分からない奴だったが、クラブに住むなんてことをする奴だとは知らなかったのだ。逆によくそんな発想があったな、と思う。寝坊を余裕でする彼にはちょうどいいのかもしれない。変な顔をしてしまった私に後藤さんは笑い、嬉しそうに呟いた。

「まぁ、変わってなくて何よりだよな」
「そうですね。あ、そういえば有里ちゃんに私たちの写真見せたって聞きましたけど」
「あっ…」
「よくそんな写真ありましたね?」
「達海をスカウトするにあたっていろいろ調べてたら合宿か何かで撮ったやつが出てきたんだよ。有里ちゃん、内緒にするって言ったのに…」
「どんなのですか?」
「普通だよ、二人が会話してるだけ」
「…」
「どうかしたのかい?」
「いや、有里ちゃんがお似合いとか言ってたから…」
「はは」

 後藤さんがいきなり笑うからびっくりして目を見開いた。何か変なことを言っただろうか、と見つめれば後藤さんはまた嬉しそうに言う。

「達海の表情だよ、多分」
「表情?」
「有里ちゃん、こんな達海さん見たことないって言ってたからな」
「…有里ちゃん若いなぁって思います。恋に恋する感じ。フィルターか何かかかってるんでしょうね」
「有里ちゃんには本当にそう見えたんじゃないか?」
「じゃあ後藤さん、有里ちゃんに同感できます?」
「…そう言われるとなぁ」
「でしょう?そんなもんです」
「でもきっと、俺は昔からの付き合いだし、ナマエに対する達海の表情が特別なものだったとしてもそれが普通って思ってるんだよ」
「…よく分かりません」

 笑って肩をすくめると、後藤さんも呆れたように笑った。彼の、私に向けての表情が特別だとか特別じゃないだとか当事者からすれば理解はできない。みんなが見る達海猛そのものだと思うけれど、みんな恋するオーラか何かにあてられているのだろう。それに、もしそれが事実だとしてもそれはすでに過去だ、今とは関係ないものだ。

「昔の話ですし」
「…ナマエ」
「はい」
「達海と気まずいこともあるかもしれないけど、いつも通り仕事は頑張ってほしいと思う。俺たちで昔のETUを取り戻そう」
「もちろんです。気まずいことなんて何もありませんよ、あの人何も変わってませんから」

 確かに、と後藤さんが笑うので、でしょ、と私も笑う。達海猛はあの頃と変わらない、それこそ変わったのは少し老けたこと、それと私への思いくらいだろう。あ、ちょっと切ない。

20110316
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