10年って長い。
かろうじて20代に間違えられる私だが、私だってもう31歳だ、ETUに毎日のように遊びに来ていた女の子が立派な女性になって同じ職場で働くようになったりもする。10、両手で数えられる数だけども10年ってやっぱり長い。

「ナマエさん、もうインフルエンザ大丈夫なんですか?」
「うん、大丈夫だよ」
「良かった〜、ナマエさんがいなくて大変だったんですよぉ」
「達海監督が来たり?」
「!」
「さっき会ったよ。何で教えてくれなかったのかな、有里ちゃんは」

 意地悪く笑うと、有里ちゃんは顔をひきつらせて目を逸らした。小さい頃、こうやって彼女を叱ったことが何度かあったなぁと思い出す、本当に小さかったのになぁ、お母さん気分だ。有里ちゃんは苦笑いをしながら答えた。

「いや、達海さんとナマエさんが付き合ってたってことは知ってたし、インフルエンザで弱ったナマエさんにそのことを知らせるのは、ちょっと、あれかなぁ、って…」
「ふぅん…やましいことはない、と」
「ごめんなさい二人がヨリを戻すためにロマンチックな再会を考えてました!」

 何となく怪しいなとは思っていたら案の定だ、小さい頃からみている分、有里ちゃんの嘘は分かりやすい。可愛らしい気もするけれど呆れてため息が出てしまった。

「何で有里ちゃんがそんなことを…」
「だって後藤さんに見せてもらった写真、二人がすごくお似合いだったんだもん!」
「そうかなぁ…」

 悪い気はしないが、成人にもなった子がそんな夢見がちなことを考えるもんなんだろうか。…私が歳を取って、考えが固い、現実主義になったせいかもしれないが。それにしても後藤さん、何を思ってそんな写真を見せたのか。

「まぁ、もう別れたし、ないと思うよ。達海監督も新しい人いるんじゃない?35だし」
「いないって言ってたよ」
「…そう」

 いないのか。もしかして、ずっといなかったのだろうか。これがドラマや映画なら、私が忘れられなくてとかそういう筋書きだろうけど、これは現実だし、最後の言葉を思い出せばそんな筋書きは相応しくないだろう。男が寄ってこないから太れ、つまり俺以外の男と付き合っていいよということだろう。三十路も越えれば結婚もあるだろうし、もし私との復縁を考えていたのならそんな発言はしないに違いない。

「どう?久しぶりに会ってときめいた?」
「…」

 泣いた上に抱き合ったことは言わないでおこう。私は曖昧に笑って、パソコンを立ち上げた。

「びっくりしただけだよ。さ、仕事しよう」
「もう…」


20110315
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